環境保全に一役、日本初の「自転車観光会社」

Buisiness Challenger
(有)京都サイクリングツアープロジェクト
多賀一雄社長
環境保全や渋滞緩和に一役
日本初の「自転車観光会社」
(有)京都サイクリングツアープロジェクト
設立:2001年(法人化は2005年8月)
事業内容:自転車観光ツアー、自転車レンタル、自転車販売
本社:京都市下京区油小路通塩小路下ル東油小路町552-13
連絡先:075-354-3636/eメール taga@kctp.net
URL:http://www.kctp.net/jp/index.html
「京都を通して日本の文化を知ってもらうこと。そして、日本の自転車文化そのものを変えていくこと。この2つが当社のミッション」。
こう語るのは京都サイクリングツアープロジェクト(KCTP)の多賀一雄社長だ。同社はJR京都駅すぐそばに本社を構える、日本初の“自転車観光会社”だ。主業務は京都市内の名所をガイドと共に巡る自転車ツアー。そして自転車レンタルなども行なう京都府の登録旅行業者である。
世界的な観光地として名高い京都。だが、観光客の不満の第1位は、市内の交通の不便さだ。行楽シーズンともなれば、ターミナル駅は観光客でごった返し、バスに乗るのも一苦労。しかも、道路は大渋滞し、観光スポットも人と車であふれかえっている。優雅に京の雅を楽しむ、というわけにはいかないのが実情だ。
京都出身の多賀社長は学生時代に仏教美術を専攻。もともと日本文化への意識が強く「いずれはこれを伝える職に就きたい」と考えていた。一方で京都の交通事情に関する不満の多さを知り、「せっかくきていただいた観光客に、もっとゆっくりと京都の町を楽しんでいただきたい」との思いを募らせていた。
この2つのテーマを解決すべく、自転車観光業を開業。01年に、まずは個人事業主として事業をスタートした(法人化は05年8月)。
事業を始めるにあたり多賀社長は、開業前の1年間、徹底的にマーケティングリサーチを行なっている。京都市内の旅館やホテル、そして旅行代理店などを回り、自転車観光の可能性をリサーチした。
結果は「あり得ない」や「不可能」など否定的な意見ばかりだった。理由は2つだ。1つは自転車に乗った観光客の安全性の問題。自転車に不慣れな場合、転倒などの危険がある。また、自動車との接触事故の可能性もある。そこで多賀社長は損害保険会社に相談に出向き、新たな自転車保険を作ってもらうことで、この課題を克服した。
もう1つは天候の問題だ。自転車を使う以上、最終的には当日の天候に左右される。京都の場合、年間平均で75日が雨というデータもある。そこで多賀社長はキャンセルの受け付け方を工夫。レンタサイクルについては、当日の貸出開始時間から30分以内であればキャンセル無料としたのである。
こうした工夫で日本初の自転車観光会社をスタートした多賀社長。今では年間1000人以上の自転車ツアー客を集め、年間約5万人に自転車をレンタルするまでに、会社を軌道にのせたのである。
欧州の自転車文化
多賀社長はKCTPの社長以外にも、NPO法人自転車活用推進研究会理事を務め、自転車に関わる環境整備活動などで多忙な日々を送っている。
ここまで自転車にのめり込んだきっかけは、海外留学時代のこと。大学を卒業後、一度は一般会社に就職したが、日本文化を世界に伝えたいとの思いが断ち切れずに退社。まずは語学勉強のために、イギリスへ渡ったのである。
ホームステイ先から学校までは6kmほど。当初はバスを利用していたが自転車を勧められ、モノは試しと中古のマウンテンバイクを購入した。だが通学路には長い坂道が多く、初日はまったく漕ぎ登ることができなかったという。
しかし、その自転車は18段変速機を装備しており、3日目に初めてこれを活用したのだ。すると今まで歯の立たなかった登り坂を難なくクリア。「登り切った時に、強い達成感と自転車の持つポテンシャルの凄さを実感した」(多賀社長)のである。
やがて帰国し、日本の文化と自転車の素晴らしさの伝承を両立できるビジネスモデルを模索、自転車観光業へと行き着いたわけである。
それだけに多賀社長は、自転車に対する思いも人並み外れている。
「5〜10km程度の移動であれば、自転車が最適の交通手段。時間が早く環境への負荷がない。その上、体にもいいことを、多くの人に理解いただき、自転車を長く大切に使う文化を普及させたい」(多賀社長)。
ヨーロッパでは、自転車は自分の道具として、修理しながら長く大切に乗ることが当たり前だ。ともすれば使い捨ても同然の、今の日本の自転車文化とのギャップは大きな悩みの種である。
自転車に対する意識の違いを国別に表している興味深いデータがある。04年の世界の自転車平均販売価格だ。これによると日本の平均価格は1万1000円強。これに対しドイツは5万4000円強、オランダは9万3000円強だ((財)自転車産業振興協会「自転車生産動態・輸出入統計」より)。
日本の価格の低さは、JIS規格に適合していない自転車のウエートの高さが要因だ。自転車産業振興協会の調査では、JIS適合自転車の販売割合は2004年で23%強。これ以外の自転車では、フレームやパーツ類の強度不足などが多かったという。
自転車本来の在り方
「こうした自転車は危険性が高いばかりでなく、自転車本来の持つ快適さや利便性を感じることができない」(多賀社長)。
日本の自転車保有台数は9000万台以上だが、その9割がシティサイクルだ。いわゆる「ママチャリ」などとも呼ばれ、日本では軽視されがちな自転車ともいえるだろう。
その要因を多賀社長は「本来なら車両を扱う者として、知るべきルールやマナーの教育を怠ってきたことが大きい」といい「その根底には70年代に行なわれた道路交通法改正の影響がある」と分析する。この改正で、一部歩道の自転車通行が認められたのだ。
本来であれば自動車と自転車がそれぞれのレーンをルールに則って通行することが理想だ。そうなれば社会問題化している自転車と歩行者の接触事故なども減ることになろう。
しかしながら、歩行者と同等の扱いになったことが、結果として自転車に乗ることへの心構えや準備などを「大きくスポイルした」というわけだ。当然、道具としての愛着が湧くはずもない。
自転車の平均速度は一般人で17km/h。それだけの高速車両を、歩行者と混在させている現状に、本来は無理がある。
とはいえ、一足飛びに環境を整備することは難しい。だからこそ、問題意識を1人でも多くの人に感じてもらい、自転車本来の快適さや利便性を再認識してもらうことが多賀社長のテーマである。自転車は環境に優しく、健康にもいい−−。このことに異論を挟む余地はないはずだが、では、いかに安心して活用できるようにするか。CO2排出量抑制が重要課題となっている今こそ、真剣に議論すべき時期だろう。


[ 写真 ]
左:自転車文化の普及をミッションとする多賀社長
右:ツアーやレンタル用のKCTPオリジナル自転車。販売も行なっている。





