「逆上がりの指導」を機に起業、心を育てる体育の家庭教師

ビジネスチャレンジャー

(有)スポーティーワン
水口高志社長


(有)スポーティーワン
設立:2001年4月 社員数:4名 登録インストラクター:約200名
事業内容:家庭訪問による体育指導、スポーツ教室の経営、スポーツインストラクターの派遣・紹介、斡旋家庭訪問による学習指導、心理カウンセリング等
所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷1-21-6 フォレストビル1階
連絡先:03-5775-7880/eメール sporty-1@s8.dion.ne.jp
URL:http://www.sporty-1.co.jp


「逆上がりの指導」を機に起業
技術と心を育てる体育の家庭教師

 

businesschalle1.jpg

 どうしたら逆上がりが、できるようになるか−−。子供の頃、体育の授業で悔しい思いをした読者も少なくないだろう。スポーティーワンは子供のそんな悩みを解消してくれる、体育の家庭教師派遣センターだ。鉄棒をはじめ、体操や水泳、縄跳びや跳び箱など体育全般を、マンツーマンで指導している。


 現在の会員生徒数は約1000人。200人ほどの登録インストラクターが個別訪問し、生徒宅近くの公園や施設などで指導している。首都圏中心の展開で、週1回1レッスン90分で6500円(税・交通費・実費別)だ。
 ここ数年で同業者が急増したが、同社が設立された01年当時は皆無。創業者の水口高志社長も、「事業として成立するかどうか、最初は半信半疑だった」と振り返る。


 水口社長の持論は「運動ができる・できないは、運動神経の問題ではない」ということ。「慣れているか・いないかだけ。必ず最後はできるようになる。そのために大切なことは子供の自主性を引き出すこと。無理強いをさせないこと。ほめること」だという。
 同社の設立は01年4月だ。だが、水口社長は日本体育大学の学生だった93年頃から、アルバイトの家庭教師として体育を個別指導してきた。最初は1人でスタートしたが、徐々に仲間が集まり、在学中は8人ほどで100人近い生徒を指導した。


 もともと体育教師志望だったが、アルバイトを通じて運動で困っている子供の多さを実感。「教師になって学校の枠の中で教えるよりも、自分が考える体育指導を実践したい」との思いを強くしたのである。学校教師の場合、運動のできない生徒のために時間を割き、できるようになるまで指導することは難しい。
 運動のできない子供たちに共通することは「やってもできない」というコンプレックスを持つこと。これを取り除かない限り、いくら技術的な指導をしても成果につながらない。逆にいえば、これさえ克服できれば、どんな生徒でも運動ができるようになる。このことを痛感した水口社長は、体育の家庭教師という独自の道を突き進むことになったのである。

 



小学生時代は運動音痴

 家庭教師をするきっかけとなったのは、知人からの依頼だった。
  「息子が逆上がりができなくて困っている。来週試験があるので、何とかしてもらえないか」。
 二つ返事でOKした水口社長は、さっそく、その子供に話しを聞いてみた。彼は「逆上がりはやってもできない」という諦めの心境に陥っていた。これを聞いた水口社長は「自分と同じだ」と直感したのである。実は自身が小学校低学年まで運動が苦手。逆上がりでも居残り特訓をさせられたなど、現在のイメージとは正反対のタイプだったのだ。


 それだけに知人の息子に強く共感。「必ずできるようにしてあげよう」と決意したのである。そして指導開始から5日目、ついに逆上がりができるようになった。何より、できるまで努力した生徒の頑張りに感動したという。
 指導した5日間で、生徒の手には水ぶくれができ、皮も破けた。それでも、ついてきたのだ。水口社長もそれに応え、自らの背中を踏み切り台代わりにさせるなど、全身でサポートした。そして、少しでも足が高く上がると「その調子。よくなってきた」「もう少しでできる」とほめ続けたのである。2人のやり取りは日が暮れるまで続いたという。


  「自分が、運動が苦手だったことは『このことにつながったんだ』と運命的なものを感じた。初めからスポーツ万能だったら、できない子供の気持ちが分からず、うまく指導ができなかったはず。『運動が苦手だった自分だからこそ』という使命感をこの仕事に感じた」。
 やがて、その子供の友人を紹介される。「この子も運動が苦手なので、指導してもらえませんか」−−。こうして水口社長の評判は、口コミで広がったのである。

businesschalle2.jpg

左:水口高志社長        右:子供の自主性を引き出す独自の指導方法

 


心の指導・育成を重視


 体育の指導を通じて水口社長が感じていることは、コミュニケーション不足の子供が多いということだ。初めて指導する場合、最初は態度や言葉のきつい子供が少なくないという。目上に対する言葉遣いができず、ふざけて殴る時にも力の加減を知らない。だが、何かの運動ができるようになるに従い、言葉遣いが優しくなり、力の加減も分かってくるという。「先生、ゴメン」と素直に謝るようになるのだ。
  「じゃれ合う仲間もなく、人との距離感の分からない子供が多い。しかし、指導を通じてそこが変わる。穏やかになってくる。そういう変化を目の当たりにすると、この仕事をやっていてよかったと思う」。


 スポーティーワンでは運動だけでなく、子供たちの心を開き、努力することの喜びや大切さを教えることを重視している。
 その一環として水口社長は04年に心理カウンセラーの資格を取得。これを生かし、技術だけでなく、子供の心を育成する独自の指導方法を、インストラクターに習得させている。若年者の凶悪犯罪が珍しくはない昨今だけに「体育を通じて思いやる心を持った子供を1人でも多く育成したい」と考えるからだ。
 しかしながら、必ずしもすべての子供にこうした指導を徹底できるわけではない。水口社長が残念に思うことは、親の意向で指導が途中で打ち切られることである。


 例えば水泳を指導したある生徒の場合、スポーティーワンにくるまでは水に顔を付けることさえできなかった。その子供を水泳の25m試験に受からせてほしいというのだ。期間は2カ月ほど。まずは水に対する恐怖心を取り除くことから始めた。懸命の指導で水に慣れ、少しずつ泳げるようなった。だが、やはり時間が足りない。試験では15mしか泳げず、不合格。レッスンもそこで打ち切られたのである。
 水口社長は「合格できなかったことは、こちらの指導力不足」としつつも、「もう少し長い目で見てほしかった」と打ち明ける。


 水に顔を付けられない子供が、2カ月で15mも泳げるようになったのだ。そこまでの努力を評価するのか、それとも不合格だったという事実だけを評価するのかで、子供が受け取る印象は大きく変わる。
  「レッスンを続けていれば必ず25m泳げるようになった。そして、努力することの喜びや達成感を感じられただろう。しかし、途中でやめてしまえば『やっぱりダメだった』という思いしか残らない。そのことが心残りでしかたがない」。


 将来の夢は「学校を創設すること」という水口社長。体育に限らず、すべての科目を総合的に指導する教育の場だ。何より「夏休みでも登校したくなるような、ワクワクできる学校にしたい」という。教育の在り方が大きく問われている今、水口社長が投じようとしている一石は、大きな波紋となるかもしれない。

 

記事一覧に戻る