企業研究/住友金属工業 総力をあげて取り組む「地球温暖化防止策」

企業研究
住友金属工業

総力をあげて取り組む
「地球温暖化防止策」



08年以降、いよいよ京都議定書の温暖化防止の枠組みが本番を迎える。
とりわけ厳しい条件のもと、目標達成に向けて取り組んでいるのが国内鉄鋼業界だ。
住友金属工業も達成に向けて尽力する1社だ。
その事業活動は“産業の母”として、社会全体の省エネ化をも支える。

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「京都議定書」とは何か?
批准国が目標を達成しても
地球規模のCO2排出量は大幅増



 

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  「京都議定書」という言葉は、誰もが耳にしたことがあるはず。地球温暖化の要因である二酸化炭素(CO2)の排出削減を目指した国際的な取り組みだ。
 京都議定書は、2008年から2012年までの5年間平均で、先進国が排出するCO2(正確には、CO2を中心とする温室効果ガス6種類)を基準年の1990年に比べて5%以上削減することを全体目標とする。さらに批准国は自ら削減目標を設定し、その達成を国際的に約束する。

 日本の場合、6%の削減目標を掲げている。だが、現時点では90年より8%増えているため、来年からの5年間平均で今より14%削減する必要がある。現実には、14%もの削減を成し遂げるのは不可能と見られ、京都議定書が規定する「排出権取引」を活用するしかないとされる。
 排出権取引とは簡単にいえば、削減目標をクリアした国の超過分をお金で買い取り自国実績に組み入れること。また、技術・資金を供与した相手国の省エネ化プロジェクトで得られる削減量の一部を、自国実績にカウントすることも可能だ。後者の方法は相手が途上国の場合「CDM=クリーン開発メカニズム」と呼ぶ。

 日本がこの方式で14%の削減目標を達成する場合、国の税金で賄う分だけでも総額数千億円が必要との見通しもある。

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 仮に数千億円を支払ってでも、世界的なCO2排出増加に少しでもブレーキをかけることに役立つなら意義がある。しかし、京都議定書が十分機能したとしても、CO2排出増加が鈍る保証はない。
 なぜなら、京都議定書の批准国が排出するCO2は、世界全体の3割でしかないからだ(図1)。
 中国などCO2排出を急増させている途上国には削減義務がない。そして世界最大の排出国、米国は批准していない。

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 米国エネルギー省の試算では2010年の段階で世界のCO2排出量は、90年の41%増になるという(図2)。先進国から途上国への省エネ技術の移転が進んでも、当面の削減効果は限定的になりそうなのである。

 


鉄鋼業の排出量購入は600億円超

 次に鉄鋼業界の状況を見てみよう。
燃料に石炭を使う鉄鋼業は、産業界の中でも最大のCO2排出セクターだ。ただし、日本は状況がやや異なる。70年代の石油ショック以降、省エネを追求し続けており、すでに製鉄所の原単位(単位生産量当たりのエネルギー消費量)は世界最小にまで縮小しているのだ。同じ量の鉄鋼を生産するのに、米国の83%、中国の67%しかエネルギーを必要とせず、CO2排出量も少ない。

 にもかかわらず、国内の鉄鋼各社は、業界で定めた自主行動計画で「90年度比で10%削減」という目標を掲げている。しかも、昨今の鉄鋼需要の高まりから粗鋼生産量が増加基調にあり、「今のままでは目標達成は厳しい」との見方が根強い。
 そのため、鉄鋼各社は途上国で行なわれる省エネ化プロジェクトへ資金や技術を供与している。そのコストは業界全体ですでに600億円。来年から得る排出権としては2800万トン分になるが(国内鉄鋼業が目標とする削減量は08〜12年で9700万トン。2800万トンはその3割に該当)、これでも足りず、追加支出が必要な見通しである。

 世界最高の省エネを実現している日本の鉄鋼業が、あえて排出権を購入しているわけだ。これ対し、原単位が劣る米国の鉄鋼業は何ら制約を受けず、途上国の鉄鋼業も好条件のまま競争力を高められる。こうした状況に日本鉄鋼連盟は、単に競争上、不利なだけではなく「削減目標を達成するために国内生産に制約がかかると、原単位が劣る国へ生産がシフトして、地球規模での温暖化防止に逆行する」と現行制度の矛盾点をアピールしている。
 いずれにしても来年から本番を迎える京都議定書は、多くの課題を抱え、先行きも不透明だ。すでに国際社会の関心は、2013年以降の「ポスト京都」の枠組みをどう作り上げるかに移っているとの声もある。





住友金属の「地球温暖化防止策」
「環境格付け」で
業界初の最高ランクを取得


 日本の総消費量の10%超という大量のエネルギーを使う鉄鋼業界は、これまで環境保全を重視してきた。とりわけ住友金属工業は熱心だ。環境部の飯吉理部長は「環境は経営の柱そのもの」という。この6月には、日本政策投資銀行が行なった「環境格付け」で、業界初の最高ランクを取得するなど、その取り組み水準の高さが公的にも認められた。

 住友金属は100年以上の歴史を誇る、住友グループの中核企業だ。鹿島、和歌山、小倉に鉄鋼の精錬から製品生産までを一貫して行なう製鉄所を擁し、粗鋼生産量は国内3位。特に付加価値の高い製品を得意としている。
 住友金属の環境対策は事業全体を対象とするが、その中心は生産工程だ。環境負荷の大きいCO2、最終廃棄物、指定化学物質の排出削減が柱である。

 CO2排出削減については06年度、90年度比で約6%の削減を成し遂げた。他業種から見れば十分なレベルだが、同社も業界自主行動計画に即し「08〜12年度の5年間平均で90年度比10%削減」を目標としている。
 飯吉部長は「鉄鋼業の場合、他業種のように生産量当たりではなく、排出量の絶対値で削減水準を評価される。生産量の伸びている今の状況で、目標を達成するのは非常に難しい。だが、CDMによる排出権購入のほか、地道な削減効果の積み重ねで目標を達成する」と話す。

 



地道な削減対策

 

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 地道な対策の1つとして、住友金属は和歌山製鉄所の上流工程に「CDQ(コークス乾式消火設備)」を導入する計画だ。CDQはコークス(石炭燃料)の消火に、水ではなく窒素ガスを使い、排熱を自家発電の熱源として回収する大型設備だ。CDQを導入する生産工程では、1.7%の省エネ効果が見込めるという。

 こうした生産設備の省エネ化はほぼ手を尽くしているので、残るのはきめ細かい部分だ。例えば、広大な各製鉄所は天井照明に水銀灯を数千灯使っているが、「ハロゲンランプと反射板の組み合わせに変えると、一灯当たりの消費電力が半分になる」(飯吉部長)と工場単位での取り替えを進めている。

 また、モーダルシフト(省エネ効果の高い輸送手段を用いること)にも熱心だ。もともと鉄鋼業の物流は、エネルギー効率の高い海運主体だが、「その比率を1%でも2%でも高める」との決意のもと、同業他社との共同配船を実施するなどして、80%以上の海運比率を維持するという。

 さらに、同社のCO2排出削減に対する貢献は、自身の排出量だけでは評価できない。自動車の軽量化(燃費向上)を実現した高機能鋼材のように、同社に製品が直接・間接的にCO2排出削減に貢献している例は多い。
 鉄鋼業界では、生産工程以外の取り組み(製品の高機能化、モーダルシフト、副産物の資源化等)による業界全体のCO2削減貢献は、日本の排出量全体の1%相当と見ている。住友金属も今後はこうした分野での削減策をより強化する考えである。



国内唯一の巨大リサイクル設備

 さらには、再資源化も重要だ。鉄鋼の精錬工程では大量のスラグ(精錬時に出る副生物)が生まれるが、住友金属はその再資源化を積極的に進めており、最終廃棄物の量を90年度比で85%削減している(05年度実績)。これは鉄鋼業界が自主行動計画で定めた75%の目標値を上回るもの。
 特に高炉から出るスラグ(全体の7割)については、100%再資源化する。セメント原料や道路の路盤材に用いるほか、「海底を浚渫(しゅんせつ)した後にできる窪地では赤潮が発生しやすい。それを自然砂代替としてスラグで埋め戻す」(飯吉部長)という新用途もある。

 さらに、自社の生産工程から発生した廃棄物を再資源化するだけでなく、鉄工メーカーなどが産廃として処理していた鋼材の切れ端から、鉄鋼原料を回収する循環ビジネスも手掛ける。
 鹿島製鉄所に設置した「ダスト還元キルン」は、鋼材のメッキ部分に含まれる亜鉛の分離回収も可能な国内唯一の大型回収設備だ(キルン=窯は、直径4m、長さ80mに及ぶ)。亜鉛の需要が高まっていることから設備の増設も検討中という。

 



グループ会社への“環境監査”

 鉄鋼生産では、有害化学物質の排出・移動が避けて通れず、それぞれ環境基準が国・自治体レベルで規定されている。住友金属の場合、「基準を達成するのは当然として、自ら高いハードルを課して排出削減に務めている」という。例えば、揮発性有機化合物(VOC)の排出については、業界が定める目標基準を上回り、01年度比で54%削減している(05年度実績)。
 さらに有害化学物質は排出削減も大切だが、データの透明性も重要である。ここ1、2年、大手鉄鋼メーカーで行政へ報告するデータの改ざんが相次ぎ発覚したが、住友金属は内部統制の強化で、このテーマに対処している。

 飯吉部長は「情報にミスや不正がないよう、環境管理には細心の注意を払っている。グループ全体の問題なので、昨年からグループ会社に対して環境監査を行なっている」と話す。「環境が経営の柱」とする同社にとっては、環境データのミスや不正は、会計データのミスにも等しいわけである。
 以上、紹介したのは、住友金属が手掛ける環境対策のごく一部だ。同社が環境対策に投じているコストは、05年実績で投資が51億円、維持費が361億円にも達する。
 鉄鋼会社は産業・社会の基盤を支える業種だが、多くの人にとっては身近な存在とはいえない。その裏側では環境保全に向けた、並々ならぬ努力が今も続けられているのである。





住友金属工業環境部/飯吉理部長

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生産現場やオフィス
だけでなく
家庭でのCO2抑制も重要


 地球温暖化防止については、鉄鋼業界は、ますます厳しい目を向けられるだろう。確かに現行の京都議定書には課題も多い。だが、業界として対外的に約束した「自主行動計画」(CO2排出量を90年度比で10%削減)は絶対に守る必要がある。

 一方で、2013年以降の「ポスト京都」の枠組みについては、業界の考えをアピールし始めている。削減ポテンシャルの高い中国、インドなどの参加は絶対に必要な条件。また、「セクター別アプローチ」(セクターごとの国境を越えたエネルギー効率化などへの取り組み)も進めるべきだろう。各国の原単位や削減ポテンシャルを考慮しながら、国際競争上の公平さと排出削減の実効性を両立させやすい。

 日本の鉄鋼業は現在、中国、インドの鉄鋼会社へ省エネ技術を供与するため、事前調査に入ろうとしている。仮に日本並みの省エネ技術が他国に移転されると、2020年段階で約3億トンの削減が可能という試算もある(日本全体の排出量は05年で12.4億トン)。
 省エネ技術には(装置を開発する)電機メーカーの知的財産と我々の運用ノウハウが詰まっているので、無償供与は難しい面もある。だが、実現すると削減効果は大きく、我われとしてもぜひ協力していきたい。
 そうした業界をあげてのグローバルな取り組みの一方で、日本社会の一員として、国内の排出削減にも貢献していく。

 生産や物流、オフィスの省エネ化を進めるだけでなく、家に帰れば一生活者である社員一人ひとりの意識改革を、促す必要があると考えている。日本全体で産業部門は省エネ化が進み、CO2排出量を徐々に減らしている。だが、家庭部門は逆に排出量が増えている。
 当社では現在、100人ほどの社員に「環境家計簿」(消費に伴うCO2排出量を簡単に算出できるソフトウェア)を付けてもらっている。実際、家計簿を始めると、CO2排出を減らそうという意識が働くようだ。今年は、その参加者を200人以上に増やしたい。CO2排出削減について、できることは最大限に取り組んでいく。





自動車の軽量化や路面電車の低床化
意外と身近な住友金属の技術



 最近は鉄鋼製品の高機能化が目覚ましい。高付加価値製品を得意とする住友金属の製品は、多くの産業分野で製品・技術改善に貢献しており、それが結果的にCO2排出削減をも、もたらしている。
 ただし、鉄鋼製品はあくまで素材であるだけに、一般の人がその存在を認識する機会は、あまり多くないだろう。しかしながら、意外に身近なところで、住友金属製品は活用されている。
 例えば自動車用鋼材だ。最近の自動車は燃費向上が著しいが、要因の1つとして車両の軽量化がある。それを可能にしているのは、「高張力鋼板」のように、薄くても普通鋼板並みの強度を持つ高機能な鋼材が登場したからだ。

 住友金属は世界で初めて自動車用焼付け硬化型の高張力鋼板を開発。これはドアやフードなど自動車の外板パネルに用いられており、石が当たってもへこみにくいという特長を持っている。さらに高張力鋼板の研究・開発は続けられており、最近ではより高機能な「スミデントスーパー」を開発。自動車用外板パネルへの実用化に向けた取り組みがなされているという。

 また、自動車の安全性に欠かせないエアバッグでも、同社の製品が活用されている。エアバッグを膨張させる装置(インフレータ)のガス充填容器に使用される鋼管には、高強度・高靱性と小型軽量化が求められる。同社は、この2つを両立したインフレータ用鋼管を実用化し、安全性の向上と小型軽量化に貢献しているのである。
 また、鉄道分野でも同社製品は無縁ではない。最近では路面電車が人と環境に優しい交通機関として見直されてきている。住友金属は車両の低床化に一役買っているのだ。同社は鉄道車両製造会社と共同で、国産車両としては初めて、台車部分を含めた100%の低床化を実現した。これにより大幅な軽量化を達成すると共に、停留所と乗降口の段差をほとんどなくすことが可能になり、車いすやベビーカーでも乗り降りが楽な、人に優しいユニバーサルデザイン化を実現している。

 こうした実績が評価され、米国の高速鉄道に向けても部品を輸出しているという。住友金属の技術は今後、米国のモーダルシフトにも貢献することになりそうだ。

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[写真]
左:性能測定中のドアパネル
中:LRV(Light Rail Vehicle)用台車
右:長崎電気軌道の超低床路面電車