IT活用事例/井手町立多賀小学校 体育授業にエクセルをフル活用

IT活用事例(学校編)
井出町立多賀小学校

体育にエクセルを有効活用
クラス全員が持久走好きに!


IT使って子供達に運動の楽しさを伝達
「持久走」ではエクセルでラップタイムを折れ線グラフ化
デジタルムービーとプロジェクターで全員が「跳び箱」を跳ぶ



  「少なくとも嫌いや苦手なままで終わらせたくなかった。体力の向上とまではいかなくとも、体育で体を動かすことの楽しさを伝えたい」
 こう語るのは、京都府井出町立多賀小学校の森脇正博教諭。体育の授業でITを活用し、子供たちのやる気を引き出している。例えば、寒い冬の早朝に子供たちが率先してマラソンにチャレンジしたり、クラス全員が跳び箱を跳べるようになったほど。運動の得手不得手に関わらず、クラスに体育嫌いな子供はいない。

 体育は小学校の教科でも、比較的人気はある。だが、それはバスケットやサッカーなどの球技のことで、持久走やマット運動などは人気がない。特に運動能力の差が明確になるだけに、苦手な子供にとっては苦痛の大きい種目となっている。
 最近の小学生は体力や運動能力が落ちたと指摘されているが、基本的に運動のできる子供の体力レベルは昔と変わらない。運動を苦手とする子供が急増していることが背景にある。つまり、能力の二極化が進んでおり、体を動かすことが苦手な子供たちが平均値を大きく下げているのだ。

 この意味で、運動が苦手な子供にできる喜びや体を動かす楽しさを伝えることが、小学生の体力低下問題の解決にもつながる。多賀小学校の森脇教諭はITを利用することで、これを実現した。
 具体的には、体育の単元として「持久走」と「跳び箱/マット運動」でITを駆使している。



順位ではなくラップを意識
 

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 体育の授業で子供たちに最も不人気な単元が、「持久走」だ。寒い時期に長い距離を走るだけの持久走は目標がないと苦しいもの。このため通常は、順位やタイムなどの優劣を目標にしがちだが、足の遅い子供はますますやる気をなくしてしまう。

 そこで、森脇教諭はラップタイム(一定間隔ごとの所要時間)に注目。「マラソン選手を見ても分かるように、同じペースで走ることが一番重要だと教えた。これならば優劣は関係なくなる。『持久走はタイムや順位が遅くても楽しいスポーツ』ということを子供たちに伝えよう」と考えたのだ。

 だが、単に「同じラップタイムで走りなさい」と指導しても、小学生は時間に対する感度がそれほど鋭くない。そこで、表計算ソフトのExcel(エクセル)を活用して、1周ごとのタイムを入力すると自動的にラップタイムの変化を折れ線グラフで表示してくれるソフトを作成。ラップタイムの変化を、ビジュアル的に読み取れるようにした。
 当然、ラップタイムの差が小さいほど折れ線グラフは水平になる。「線が水平になるように頑張りなさい」といえば、子供たちも理解しやすくなる。

 授業では、ペアを組んだ子供たちが仲間のタイムを記録。完走後、自分のタイムをパソコンに入力して、折れ線グラフを作成する。ラップ差がないことが評価されるので、走るのが苦手で総合タイムが遅くとも、ラップの刻み方次第では好評価されるわけだ。しかも、森脇教諭は、プロジェクターで大画面にグラフを投影してクラス全員の前でほめるので、子供にとっては喜びもひとしおだ。
 

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 さらに、一歩進めて自分なりの理想ラップを設定させる。そうすると、グラウンドを走る際、2週目や3週目に入る時のタイムが決まる。例えばラップ50秒なら2週目は50秒、3週目は1分40秒といった具合だ。

 このタイムを目安に実際に走る子供たちは、時計やペアの仲間からの掛け声を気にしつつ、「想定ラップより遅いから少し速く走らないと」「速すぎるからペースを落とそう」などと考えながら、ゲーム感覚で持久走を楽しんでいる。ラップタイムを意識することで、ペース配分を体感的に学べるメリットもある。

 この効果は抜群。森脇教諭は「全員が持久走を好きになってくれた」と満足気だ。実際、子供たちが書いた校内マラソン大会の作文を見ると、「いつもは途中で歩いてしまうけどペースを考えながら走ったら、一度も歩かなかった」「マラソンは他人ではなく、自分と勝負するもの」といった感想が多い。楽しく走るという考え方が確実に浸透している。

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上:「ペースが遅いよ」という仲間の声援を受けて、子供たちは各自の理想ラップを意識しながら持久走を楽しむ
下:パソコンで折れ線グラフ化したラップタイムの記録は、プリントアウトして子供に配る。時には、励ましのコメントを書くことも



全員が「跳び箱」を跳んだ


 持久走に次いで不人気な種目が「跳び箱」や「マット運動」。最大の理由は、実技がうまくできないことである。
 解決策は、できるようになってもらうしかない。ここではデジタルムービーとプロジェクターを活用して、それを実現した。クラスに10人ほど跳び箱が不得手な子供がいたが、全員が跳べるようになったのである。
 具体的には、デジタルムービーで撮影した実技の映像を、プロジェクターを介して体育館内に設置した大画面スクリーンですぐに再生する。このメリットは、「映像による実技の確認」と「モチベーション向上」にある。跳び箱の授業を例に説明しよう。

 映像による実技の確認とは、跳んだ直後にその様子をスクリーンに再現して、子供が自分の動きを実際に見ることが可能なこと。その映像を見ながら、跳べなかった子供に対して、「手をつく位置がもう少し前」といったように、失敗の原因をその場で具体的に指導することができる。
 口頭で、「手の位置が悪い」と指摘されただけでは、具体的にイメージしにくい。だが、この方法では、自分が飛ぶ姿を大画面で見ながら欠点を確認できるので、すぐに次の実技へ反映しやすい。

 また、失敗しても悪かったポイントがすぐに分かるので、「次は成功してやろう」という意欲が湧く。「子供たちは自分でも、どうすれば跳べるようになるかを考えるようになる」などモチベーション向上に効果があり、跳べるようになる確率がさらにアップするという好循環が働く。

 さらに、例え失敗しても映像を見ながら、うまかった部分を具体的にほめることが可能だ。「運動の苦手な子供に体育を好きになってもらうには、その場でうまいといってあげることが重要」と森脇教諭。それも漠然とではなく、具体的に良かった点を示すことがポイントである。デジタルムービーとプロジェクターは、体育でほめられる機会が少ない子供達のやる気を喚起するのに適したツールといえる。
 こうした指導方法は、子供たちの意識を変えた。子供の体力が低下した要因として運動量の減少が指摘されているが、多賀小学校では自発的に運動する。「子供は好きになると自分から積極的にやるようになる」からだ。

 持久走に楽しみを見出した子供たちは早起きしてマラソンし、跳び箱やマット運動も授業前に自分たちで用意して始めている。特に森脇教諭が指示したわけではない。だが、結果として自然に運動量が増え、「少なくとも持久走、跳び箱やマット運動については、着実に力がついている」。
 最近は、親が民間で体育の家庭教師を雇うケースも増えている。だが、小学校の体育教育でできることがもっとあるはずだ。多賀小学校における森脇教諭の取り組みは参考となりそうである。


 

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 森脇教諭は、多賀小学校で情報化推進の中核を担っており、体育以外でも積極的にITを活用。例えば、算数の授業で毎回採り入れている「100ます計算」の結果(所要時間)を、やはり折れ線グラフ化している。

 グラフ化することで時間の差を視覚的に認識できることは本文でも述べた通り。毎回の変化を見て、「集中できなかったから計算のスピードが遅くなった」など反省材料として利用できるという。
 自分が活用する一方で、他の教諭にも使ってもらいたいと様々な工夫を凝らす。例えば、プロジェクターの利用。かなりセッティングが楽になってきたとはいえ、手間がかかると敬遠する先生もいる。

 そこで、電源を入れてパソコンやUSBをつなげば、すぐにプロジェクターが使えるようにセッティングした部屋を用意するなど、利便性を高めている。
 「IT活用では誰でも活用できることが最も大事。そういう方法なら、他の先生も使うことができ、授業でのIT活用が広がる」と森脇教諭。エクセルの折れ線グラフのような、ソフトが持つ基本機能を利用した気軽に使えるIT活用に取り組んでいる。