「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入」とは?/井上一生

ブッ飛び税理士の耳より税金コラム②

オーナー会社の役員給与に増税!
「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入」とは?


(株)経営サポートステーション代表取締役
税理士・行政書士
井上一生


 オーナー会社がオーナー役員に対して支給する給与の額のうち、給与所得控除額(給与収入のうち概算の経費相当分として控除される金額)に相当する部分の金額に、法人税をかけるという税法の新しい規定ができました。
 ただし、オーナー会社の利益(基準所得金額=法人の利益+オーナーの役員報酬)が800万円(一定の場合には3000万円)以下である事業年度については、この規定は適用されません。

 

■図 個人と法人の損益計算書比較
損益計算書①(個人事業主の場合)

zeikin_column1.jpg※1000万円の所得すべてが課税所得になる。

 

損益計算書②(法人の場合)※ポイントは法人としての利益が0になること

zeikin_column2.jpg※従来は非課税だった給与所得控除220万円に新たに法人税がかかる。

 

 


どの部分に課税しようとしているのか
 例えば売り上げが4000万円、必要経費が3000万円の個人事業主がいるとします(図参照)。この個人事業主が会社を設立し、自分がその役員に就任。社長の役員報酬を1000万円とすれば、結果として法人の利益は0となり、高い法人税はかからなくなります。
 法人税や法人住民税等がかかることなく(一部わずかな法人住民税の均等割が残ります)、役員報酬としての給与所得のみに課税され、法人の税金は完了します。この社長は、役員報酬として年収1000万円の給与をもらいます。この場合の所得額の計算は以下の通りです。

 1000万円(収入金額)—220万円(給料取りの必要経費=給与所得控除)=780万円(所得金額)
 このような会社を設立する際の節税の原理は、個人事業所得なら1000万円に課税されるところを、780万円に減額できるところにあります。お役所はこの部分が気に入らないのです。
 財務省は、この減額されるメリット部分(220万円)に、法人税をかけようとしているのです。法人税の課税上は利益が仮にゼロであっても、この給与所得控除額220万円が法人の利益に上乗せされ、法人税や法人住民税の課税対象になってくるわけです。

 この規定は、昨年5月に施行された新会社法と関係が深そうです。会社設立が簡単になり節税目的の会社の増加が予想されるため、実質的な一人会社への対策として、改正が行なわれたと推測できます。
 しかし、これは税体系を無視しためちゃくちゃな考え方ではないでしょうか。会社の役員報酬の一部に法人税をかける。つまり、所得税を法人税に持っていくという、かなり理解しがたいウルトラC技の規定だと思います。


適用となる事業年度

 この規定は、平成18年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。簡単に書きましたが、このことは実は3月決算法人なら、何と(!)今の事業年度から適用されているという恐ろしい事実があります。


対象となる法人
 オーナー社長(業務を主宰する役員)、及びその同族関係者等が発行済み株式総数の90%以上を有し、かつ、常務に従事する役員(その定義は後述)の過半数を占める会社です。
 なお、前3事業年度の会社の利益とオーナー社長の報酬の合計額(つまり社長の役員報酬支給前の利益金額)の平均金額が800万円以下である場合等には適用除外となります。


対策①「同族関係者等の株式を90%未満にする」

 つまり、自社の株式を他人に11%以上持ってもらうということです。しかし安易な株の移動も、持ってもらうための「経済的合理性」が上手に説明できないと、課税当局が税金逃れと判定する可能性があります。
 思い当たるよい方法は、信頼できる従業員への株式贈与です。これなら「辞められると困る重要な従業員との関係強化」という説明が可能だと思われます。この従業員に対しては、株式を贈与します。その事実を証明するために、正しく株価の評価を計算し、贈与税の非課税枠110万円を少し超える形として、贈与税の申告書を提出するのです。

 一人110万超程度では、株式が11%にならない場合は、複数の従業員に株を贈与します。取引先へ譲渡する方法もありますが、これは取引先へ帳簿を見る権利を与え、値下げ圧力などになる危険性もあります。持ってもらう相手の選択は重要です。
 なお、白紙委任の相互持ち株譲渡は、課税回避になると省令に明らかにされているため注意を要します。


対策②「社長の報酬を一定内に抑える」
 報酬を抑えた分を例えば、保険等で経費化可能な積み立て退職金原資等にして、後で手にする仕組みを考えます。
 


対策③同族でない「常務に従事する役員」を半数以上に増やす
 会社をより民主的に運営することです。しかし、いうまでもなく現場の会社運営の決定機関は役員会です。役員会の構成メンバーを変えることで、オーナー役員にとっては運営が思う通りにならなくなる可能性があ


「常務に従事する役員」の範囲の問題点
 オーナー(業務主宰)役員とは、会社の経営に、最も中心的に関わっている役員です。問題はその他の役員の範囲です。
 問題①「常務に従事する役員」は、税務上の役員の概念ですから、登記簿上の役員のみならず、いわゆる持ち株要件を満たした経営に従事している役員以外にも、実質上、経営に従事している配偶者や親族も税法上の「役員」とみなされる可能性があります。

 問題②「常務に従事」とは、常勤とか非常勤とか、一般に考えるイメージとは異なります。「役員としての職務を執行しているか、どうか」と考えるため、個々の判断になり、使用人兼務役員を「役員」の数として認めない可能性があります。
 「常務に従事する役員とは、会社の経営に関する業務を役員として実質的に、日常継続的に遂行している役員」と規定されています。まぎらわしいことに、私たち経営の現場でイメージするいわゆる「常勤役員・非常勤役員」という概念とは異なるのです。

 いわゆる「常勤役員」でも経営上の重要な意思決定に参加していないのであれば、「常務に従事する」とはいえません。逆に、月に何度しか出勤しない「非常勤役員」であっても、経営上の意思決定に参加しているのであれば、「常務に従事」していることになります。会社にいるという事実と、「常務に従事」「非従事」とは一致しないというのが財務省の見解です。
 ちなみに経営上の重要な意思決定事項とは「職制や会社組織の策定」「販売計画や仕入計画、製造計画」「人の採用の許諾や評価」「資金計画(借入や増資)」「重要な設備投資」等です。



最後に
 一つ目に、節税目的等新設の会社を作る際は、この規定を事前に十分理解する必要があります。
 二つ目に外形的な判断で、今回の新しい規定の課税非課税を決めかねるデリケートな部分が残されています。
 三つ目に、特殊支配同族会社に該当するか否かの判定は 決算期末の現況によるものとされています。対策は直前まででます。お付き合いの税理士さんらと、慎重な準備が重要と思われます。
(本規定に関する詳細は税理士等へご相談ください)