企業研究/インバースネット リサイクル作業の業務委託で社会福祉を支援
企業研究
インバースネット(ヤマダ電機グループ)
リサイクル作業が社会福祉支援に一役
障害者施設にキーボード解体を業務委託
●自立支援法施行で障害者の経済的負担が増加
●その支援策として「インバース・グリーン」をスタート
●社会福祉施設へキーボード解体を業務委託
●採算性のある社会福祉支援策として順調に稼働

「企業の社会福祉支援で、ポイントは採算性だろう。ここを無視すれば、継続的な支援はできない」。
こう語るのはインバースネットの関戸光雄社長だ。
ヤマダ電機グループのインバースネットは、パソコンなどIT機器のリサイクルを手がていける。ヤマダ電機が店頭で買い取ったパソコンは、すべて同社に集められ、選別される。そして、中古パソコンとして再商品化(リユース)できるものは整備して、再び店頭へ戻す。
一方、リユースできないものは解体した上で、マテリアルリサイクル(原材料としての再利用)やサーマルリサイクル(燃料としての再利用)を行なう。月間に入荷する中古機器の量は約400t。そのうち、リサイクルできず最終処分場で処理するゴミの発生量はわずか5〜6tだ。つまり、リサイクル率98%以上という高度な技術力を持っている。
そのインバースネットが、昨年4月からスタートしたプロジェクトが「インバース・グリーン」だ。これは、栃木県で知的障害者施設を運営する大和久福祉会と提携し、障害者にリサイクル作業を業務委託するもの。現在では15人ほどが、キーボードの解体作業などに取り組んでいる。
大和久福祉会の塩野栄司理事長は「障害者福祉の制度が大きく変わった今、施設としては安定して働ける場を1つでも多く探すことが重要。インバースネットさんとの提携は、まさに福音。子供たちは本当にラッキーだった」と話す。
自立支援法の波紋
障害者福祉制度は、昨年10月に施行された「障害者自立支援法(支援法)」により大きく様変わりした。その骨子は、障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活、または社会生活を営むことができることを目指すもの。
これ自体には異論を挟む余地はないが、問題視されているのはその中身だ。特に「応能負担から応益負担への移行」により、障害者の経済的負担が大きく増加。これに対して福祉現場から、反発の声が大きく挙がっている。
従来の考え方である「応能負担」では、医療・福祉サービスを利用する際、障害者は自らの所得に応じた支払い負担をすればよかった。
これに対し支援法が採用した「応益負担」は、サービスを利用する際、所得とは関係なく、支払い負担を一律1割とするもの。これ以上、公費負担を増加させないための措置だ。その見返りの意味で、支援法は障害者の就労支援を掲げている。

つまり国は、これまでの保護という考え方から、障害者も可能な限り自立して応分の負担をすべき、という考え方に転じたわけである。
確かにこれも一理あろう。だが、問題は障害者の就労機会が、いっこうに増加する気配を見せないことだ。その一方で、1割負担だけが先行スタートしたため、障害者は本来のサービスが受けにくくなっているのが実情である。
塩野理事長によれば、障害者が支援法のもとで従来通りの医療・福祉サービスを受けた場合、「その平均負担月額は、平均月収(障害年金、働いて得た収入等)を2万7000円ほど上回るという試算もある」とのこと。つまり、すべての障害者が今以上の所得を得ない限り、これまで通りのサービスを受けることは難しいのである。
写真:解体技術は日を追うごとにアップ
キーボードの解体作業
こうした実情に対し、「少しでも役立つことはないか。リサイクル作業を委託できないか」−−。これが「インバース・グリーン」プロジェクトの発端となった。
ただし、一口にリサイクル作業といっても、その間口は広い。まずは、慣れていない障害者にも「無理なく作業できるものは何か」を模索することから始まった。その結果、行き着いたのがキーボードの解体だ。基本構造が簡単だからだ。
しかしながら、これまでキーボードは「原材料になりにくく、二束三文でリユースに回す以外にない」というのが通説だった。このままでは解体作業を委託したとしても、とても採算に合わない。
これを機にインバースネットでは、キーボードのリサイクルを徹底的に検証。その結果、基盤、プラスチック、鉄くず、フィルム基盤などの6品目に解体すれば、マテリアルリサイクルが可能なことを発見。6品目のうち、5品目は原材料として売却できるため、大和久福祉会に解体作業を委託しても採算の合うことが分かったのである。
委託がスタートした昨年4月の解体実績は3300台強だったが、9月には8000台を突破するなど、慣れるに従って作業効率がアップした。また、キーボード以外の解体品目も徐々に増えており、今ではNCUやルーターなど通信機器の解体もこなすほどとなった。
インバースネット栃木工場の樋山勲工場長は「何よりも、仕事を始めてから皆さんの顔が、本当に生き生きとしてきた。そういう姿を見ると、こちらも励みになる」と話す。

△写真
左:大和久福祉会への出荷を待つキーボード
中:解体されたキーボードは再びインバースネットへ
右:大和久福祉会のリサイクル作業場
お互いを尊重し合う関係
もっとも、ここまでまったく順風満帆だったわけではない。
例えばスタート当初、解体したキーボードをインバースネットへ搬送する際に、その一部を路上に落下させるという問題が発生した。しかも、同じ月に2度、この問題が生じたのである。
原因は積み荷の落下防止策を怠ったこと。幸い、二度とも大事には至らなかったものの、万が一の二次被害を考えれば、放置するわけにはいかなかった。樋山工場長は、対策が図られるまでの業務委託停止を決断したという。
「あの時は本当に真っ青。自分で搬送コースを逆戻りし、散乱物をすべて回収した」(樋山工場長)。そして大和久福祉会にその問題点を認識してもらい、対策が講じられたことで業務委託を再開したのである。
大和久福祉会にとってインバースネットからの業務委託は、収入を増やすという経済的メリット以外に、もう1つの狙いがある。障害者の機能回復トレーニングだ。
障害者たちは解体作業の際、電動工具を使わず、すべて手動工具を使っている。ドライバーを手で回したり、ペンチでパーツをつまみ上げたりという作業の繰り返しが、判断力、集中力、注意力などを養う効果的なトレーニングになるからである。
そして何より「働くことの楽しさや、働いて得た収入のありがたみを、実感できることの意味が大きい」(塩野理事長)という。
確かにハンディはあるものの、適切な仕事を供給すれば、障害者も立派な戦力になることを「インバース・グリーン」プロジェクトが証明しているのではないだろうか。
関戸社長は「お互いが尊重し合え、ビジネスとしても採算が合う。リサイクル事業は環境に優しいだけでなく、社会福祉の支援に役立つことが分かった。この輪をもっと広げたい」と語っている。





