空庵◎丸川智子社長 超小型人工衛星で宇宙ビジネスへチャレンジ!
ビジネスチャレンジャー
丸川智子社長
空庵

超小型人工衛星「CanSat」で
切り拓く宇宙ビジネスの扉!
「現在、宇宙ビジネスに携われる人は、ごく少数に過ぎない。この小さな人工衛星キットをきっかけにして、宇宙やもの作りに興味を持ってくれたらうれしい」
こう語るのは、超小型人工衛星キット「CanSat(カンサット)」の販売やプロデュースを手がける空庵の丸川智子社長だ。丸川社長は、小型衛星「まいど1号」のプロジェクトを進める東大阪宇宙開発協同組合(東大阪市)の広報を兼務している。この経験を通じて、「宇宙がもっと身近なものになってくれたら」との思いを強くしていた時に、カンサットに出合う。わずか直径6cm/縦12cmの小さな人工衛星に、その夢を託した。
350ml缶サイズの人工衛星
カンサットは、ジュースやビールなどの350ml缶サイズの超小型人工衛星だ。98年、米国スタンフォード大学のトィッグス教授の「機能をシンプルにした超小型の人工衛星を作ってみよう」という発想を機に、日米の大学生が開発したことでその歴史は始まった。
そもそも人工衛星とは、「宇宙空間において、通信により地上とコミュニケーションを行なうことができ、独立して仕事が可能なツール」のこと。具体的には、衛星として機能するための「バス部」と、カメラやセンサーなどを搭載し仕事をさせる「ミッション部」から構成される。このうち、基本機能であるバス部だけを抽出・簡素化して、空き缶に搭載したものがカンサットだ。
熱制御系や推進系など、宇宙で実利用するための機能は搭載していないが、基本システムは実際の人工衛星と同じだ。地上数kmの高さからパラシュートで落下させ、データの送受信を行なえる。オプションでカメラやセンサーを搭載することも可能で、地上に到達するまでの時間に様々な作業をさせることもできる。
国内では、カンサットで培った技術をベースに、東京大学や東京工業大学などの大学院生が、10cm角サイズのサイコロ型衛星「CubeSat(キューブサット)」を開発。世界で初めて、その打ち上げに成功している。
これまで遠い存在だった人工衛星を一気に身近なものにしたカンサットを、「もっと多くの人に活用してもらいたい」とキット化に乗り出したのが空庵である。同社は丸川社長をはじめとした16名の出資により、今年3月に設立された。
経営コンセプトは「人の縁をつないで面白いことをする」だ。この理念のもとに集まった出資者の職業は、実に様々。司法書士や公認会計士から、イラストレーター、スイムインストラクターまで宇宙関連事業とは縁遠いものばかり。丸川社長にしても小型衛星プロジェクトに携わってはいるが、決して専門家ではない。
社長とともに、空庵設立の中心的な役割を果たした鹿島修珠プロデューサーは、「宇宙ビジネスは本当に狭い世界。現状のままでは、新しいビジネスやアイデアは生まれにくい。異なる分野の人々が集まることで、思いもよらない発想が期待できる」と話す。
実は、カンサット・キットが実現したのも人の縁だった。「小中学生や高校生、一般人など工学知識のない人でも作れるようにして、感動を共有したい」(丸川社長)とキット化を検討する際、東大阪の衛星プロジェクトに携わっていた東京大学の中須賀真一教授に相談。同じようにカンサットのキット化を考えていた大学生を紹介してもらったことで、一気にキット化が進んだのである。
キットは数枚の基板、CPUやLEDなどのパーツ、衛星を制御するための基本プログラムなどから構成されている。空庵が直販しており、口コミだけで10機前後が売れている。今のところ、購入者の中心は教育関係だ。
カンサットを宇宙への入り口に
丸川社長は、「カンサット・キットを、宇宙ビジネスを広げる足がかりにしたい」という。カンサット・キットは、基本的に衛星製作トレーニング用教材。工学知識がなくてもパーツのハンダ付けや組み立てなど、2〜3日で完成させることが可能。しかも、人工衛星の基本要素を取得できる。「入り口の敷居を下げることにより、宇宙ビジネスに関心を持つ学生が増えるはず」(鹿島プロデューサー)という。
技術集約型の人工衛星は、宇宙のロボットともいわれている。カンサット・キット製作を通じて、プログラムや半導体、構造系といった分野の入り口に触れることも可能だ。「人工衛星が面白いと、その方面に進んでくれればうれしいが、ロケットでも宇宙飛行士でもいい。あるいは理工系の分野で、将来の夢を持つきっかけになれば、どこかで宇宙ビジネスと接点が生まれる可能性がある」(丸川社長)。
実用面でも、大きな夢を描く。一般的に、人工衛星の製作には数年もの歳月と数百億円規模のコストがかかっている。通信や放送、気象、軍事など活用分野も限られている。
だが、短期間で製作コストも低い人工衛星を開発できれば、これまでとは違ったニーズが出てくる可能性はある。実際、宇宙ビジネスでは、そうした動きもあり、丸川社長は「宇宙に打ち上げられる衛星キットを実用化してみたい。エンターテインメント分野で活用できれば」と思いを語る。
超小型人工衛星の認知拡大を狙って、カンサットをロケットや気球で打ち上げるイベントなども積極的に展開していく。すでに秋田県能代市や神奈川県などで開催。米国ではカンサットの打ち上げコンペが毎年行なわれており、今年は9月にネバタ州で実施された。空庵が参加したことは、いうまでもない。徐々にではあるが、カンサットの認知は確実に広まっている。
カンサットの打ち上げは、大きなイベントであり、地域活性化の手段としても期待できる。空庵では、そうしたイベントのプロデュースもやっていきたいという。
「イベントを通じて人工衛星の認知が広がることで、興味を持つ人が増え宇宙ビジネスに関わる面白いアイデアが出てくるのでは」(丸川社長)。
最低限のシステムだけが搭載された小さな350ml缶——。しかし、そこに詰められた宇宙への夢は果てしなく大きい。

〈会社概要〉
有限会社空庵
設立:2006年3月
出資者数:16名
事業内容:超小型人工衛星キットの開発・製造・販売・教育プログラム化、打ち上げイベントの実施など
住所(事業所):大阪府大阪市北区梅田1-1-3-267大阪駅前第3ビル
E-mail:info@qoo-an.com
URL:http://www.qoo-an.com
写真:カンサットを手にした丸川智子社長
〈製品概要〉
●超小型人工衛星キット「CanSat」
価格:21万円(税込)
基本サイズ:350ml缶サイズ(カメラなどのオプション非搭載時)
搭載CPU:H8/3069F(25MHz)
メモリ:EEPROM(32Kbyte×2)
通信機:特定小電力シリアルデータ伝送
その他、三軸加速度センサー、出力用LED×6、無線モデム、USBポート

△写真
左:カンサット・キットの主なセット内容。基板やパーツなどの他に、打ち上げ時に必要なパラシュート、回路図、通信用ソフト、キット書き込みソフトなどが同梱されている
右:空き缶は市販のものを自由に利用できる。アルミ缶よりはスチール製のものが丈夫。今後、空庵では耐久性の高い外部筐体を用意する予定





