防犯ボランティアフォーラム2006 安全・安心な地域社会構築に必要なことは何か?~Part1
特別レポート
06年10月9日、国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都)で開催された「防犯ボランティアフォーラム2006」(主催:全国防犯協会連合会/後援:警察庁/助成:社会安全研究財団)の取材手記
今、安全・安心な地域社会を
構築するために必要なことは
何か?
防犯対策は“場所”の認識から
安全マップと環境整備で大きな効果
昨年10月に開催された「防犯ボランティアフォーラム2006」では、全国から選りすぐられたボランティア団体の事例紹介と表彰、そして、新しい防犯対策を提言し注目されている立正大学・小宮信夫助教授の講演などが行なわれた。同フォーラムに最先端の防犯対策を探ってみた。PART1では小宮助教授の「犯罪機会論」にもとづく防犯対策を、PART2では大賞を受賞した3事例を紹介する。
どうすれば犯罪を防ぎ、子供や地域の安全を守れるのか——「犯罪が起こる『場所』に注目すればいい。その場所さえ知っていれば、ほとんどの犯罪を防ぐことができる」。
こう指摘するのは、立正大学文学部社会学科の小宮信夫助教授だ。欧米で成果をあげている「犯罪機会論」視点からの防犯対策を日本に持ち込み、最近注目を集めている。
犯罪機会論とは、場所や環境といった犯罪の機会を与えないことにより犯罪を未然に防ごうとする考え方。犯行に都合の悪い状況を作り出すことで、犯罪者に犯行を思いとどまらせようというのである。従来からの、犯罪者の性格や生活環境に視点を置いた防犯対策とは、大きく異なっている。
近年、犯罪都市として世界的に有名だったニューヨークの治安が向上している背景には、犯罪機会論を取り入れた防犯対策が奏功していることがあげられる。
△日本国内に一般的な公園。一見、見通しはいいが、
場所によっては死角が発生しているところもあり注意したい
△同じ公園の一角。トイレだが、あまり掃除されている様子がなく、
周囲から隠された場所にあるので犯罪者にとっては好都合と思われてしまう
犯罪が起こる場所とは
具体的に、犯罪機会論からの防犯対策は「物理的環境」と「人的環境」の改善により、犯罪者に都合の悪い環境や場所を作り出すことだ。そのためには、まず犯罪が起こりやすい場所を知ることが重要である。
小宮助教授によると、物理的環境として犯罪は「入りやすい場所」「見えにくい場所」で起こるという。「入りやすい」ということは、誰でも自由に行き来できるわけであり、犯罪者も怪しまれずにターゲットに近づき、犯行後はすぐに逃げられる。
「見えにくい」とは、監視が行き届かず人の視線がない死角のこと。犯罪者にとって犯行を行ないやすいことになる。例えば塀や高い木に囲まれた公園、細い路地など、この手の場所は近所にも多いのではないか。
また、開けていて見通しがいい場所など、一見して安全だと思えても危険が潜む可能性があると小宮助教授は指摘する。「視線をさえぎる物がなかったとしても、どこからか誰かに見られている感じがしない場所は危険。犯罪は起こり得る」ということだ。
一方、人的環境として犯罪は「団結心や縄張り意識、警戒心が薄い場所や地域」で起こりやすい。住民の関心が薄く団結心が欠如しているため、犯罪者側に「犯罪を成功させやすい」という心理が働くことが理由である。
犯罪が発生しやすい人的環境も、犯罪者は場所から見抜く。いわゆる割れ窓理論と呼ばれるもので、落書きや不法投棄などが放置されている場所では、地域住民の周囲に対する関心が薄いと判断するのだ。
小宮助教授は、国内で発生している事件の現場に足を運び、その多くが前述のような場所で起こっていることを確認している。
奈良の女児誘拐殺人、栃木の小学生誘拐殺人(茨城の山林で遺体となって発見)など、いずれの事件も、誰もが往来できる道路であり、視線のない場所で発生した。特に、後者の事件現場には、犯罪が起こりやすいサインの不法投棄などが見られたという。
広島で起きた日系ブラジル人による女児誘拐殺人事件で、注目したのは死体遺棄現場だ。そこだけ多くのゴミが打ち捨てられており、他から比べると異質の空間ができあがっていたとのこと。関心の薄い場所に遺棄することで、発覚を遅らせようとする犯罪者心理が働いたわけだ。
滋賀県長浜市の園児2人が友達の母親に殺害された事件では、幹線道路から1本奥に入った農道が犯行現場となった。入りやすく逃げやすい場所ではあるが、広く見通しがよく犯行に及びにくい状況である。だが、実際に現場に立つと、どこからも見られている感じがなく、人の視線そのものが存在しなかったという。
少し古いが、80年代後半に埼玉と東京で起きた連続幼女誘拐殺人事件の4件に共通するのは、小学校や自宅から近い公園や団地内など、多くの視線があり安全だと思われた場所が犯行現場となったこと。いずれも、窓のない団地の側面や薄暗く人通りのほとんどない死角が、実行現場として狙われたのである。
2方向からの対策が必須
このように犯罪が起こる機会が多い場所を知り、対策を講じることが犯行を未然に防ぐことにつながるわけだ。その具体策に、小宮助教授は「地域安全マップ」と「環境整備」の2つをあげる。
地域安全マップは、地図の作成を通じて子供たち自身が地域環境をチェックし、危ない場所を見極める力を養うもの。「子供自身に自衛能力を身につけてもらうことが最良の策。その教育に最適なのが地域安全マップ」(同助教授)だ。危険な場所を認識することでそこを避けたり、あるいは通る必要がある場合でも防犯意識が高まるからである。
認知も広がり、最近は多くの学校で安全マップを導入している。だが、小宮助教授は「まだまだ効果のない偽マップが多い」と指摘する。
本来、犯罪機会論から作成される地域安全マップでは、犯罪が起こりやすい条件の「入りやすく見えにくい場所」をチェックするべきだが、偽マップでは不審者や変質者が出没した場所、犯罪現場などを地図上にマークしたものが多い。
しかも、学校で教える不審者は「知らない人」「サングラスやマスクをした怪しい人」といったイメージ。これでは子供たちにとって、ほとんどの大人が不審者になってしまう。
この結果、子供と大人の間に距離ができてしまっている。少し子供に声をかけただけで、変な目で見られ、ひどい例では危ないことをしていた子供を怒っただけで、警察に連行され取り調べを受けたケースもある。子供と大人が信頼しあってこそ安全を確保できるものが、これでは逆の方向に進みかねない。
また、地域安全マップと称して犯罪発生マップになってしまっている例も少なくない。マップ作成の目的は犯罪の起こりそうな場所を子供に認識させ、防犯につなげること。犯罪発生マップは事後対策的な要素であり、警察が作るべきものという。
加えて、危険な場所を安全な場所に変える「環境整備」への取り組みも必要だろう。公園の周囲を柵で囲み内部は見えるが入りにくくする。道路に面した歩道にベンチを置くことで人の往来をアピールしたり、実際に疲れた歩行者が腰を降ろすことで現実的な防犯にもつながる。
国内でも、公園を囲んでいた背の高い木を伐採し、薄暗い通りの街灯を増やした結果、不審者による声かけ事例が激減した例も多いという。
楽書きや不法投棄などは、すぐに対処することで地域の秩序が保たれていることを示せる。安全パトロールなども、犯罪者に団結心をアピールする上では効果が高い。
子供の安全を確保することは、自分自身を守ることでもある。犯罪機会として場所に注目した防犯対策。ぜひとも実践したいものだ。
------関連書籍-----------------------------------------------

犯罪は「この場所」で起こる
著者:小宮信夫
光文社新書
2005年8月20日発行(新書)
本体720円+税/249P
主要目次
第1章 機会なければ犯罪なし
――原因論から機会論へ――
第2章 犯罪に強い空間デザイン
――ハード面の対策――
第3章 犯罪に強いコミュニティデザイン
――ソフト面の対策――
第4章 犯罪から遠ざかるライフデザイン
――もう1つの機会論――
「犯罪を『したくなる』環境と犯罪を『あきらめる』環境がある」と、場所に注目した新しい犯罪学である「犯罪機会論」。本書は、機会論の視点から、どのような場所が犯罪を引き起こすのか。また、道路や建物、公園など物的環境設計や団結心といった人的環境の改善を通じて、いかに犯罪者にとって都合の悪い状況を作り、犯罪防止につなげるか——豊富な写真と具体例で紹介している。防犯を考える上で、必読の1冊だ。
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