福島敦子のアントレプレナー対談 No.25
(写真◎乾芳江)ヤマダ電機◎一宮忠男社長
人材育成に拍車をかける!
1973年、現会長の山田昇氏が個人家電店として創業し、1983年に株式会社ヤマダ電機を設立。1989年、株式を店頭公開し、2000年に東証一部へ上場。2005年には国内専門量販店として初の売上高1兆円達成し、また家電量販店として初の47都道府県すべての店舗ネットワークを実現。2008年、本社を前橋市から高崎市に移転。今期は売上高1兆9860億円を目指している。
http://www.yamada-denki.jp/
最重要課題はCSRの強化
福島 創業35周年の節目の年にバトンを引き継がれ、6月に社長に就任されましたが、最初にそのお話があったのはいつ頃だったのですか。
一宮 3月頃だったと思います。山田社長は会長、CEOとして経営全般の舵取りを引き続きしていただくとのことでしたので、正直いって社長ということ自体、実感がわきませんでしたね。しかし、社長になって、その責務の重さをひしひしと感じている昨今です。
福島 私も多くの経営者を取材してきましたが、偉大な創業者を引き継いだ2代目社長からは、「やりづらい」とか「比較されて神経をすり減らす」とか、そんなお話をよく聞きます。一宮社長はどうですか。
一宮 私が入社したのは今から26年ほど前ですが、その当時から山田社長よりさまざまな面にわたり、指導・訓練を受けてきました。それが今の私の財産になっています。自分自身の中でそのような経緯があるので、やりづらいとか、そういったことはないですね。
福島 この35年間でヤマダ電機は、専門小売店としては日本で初めて売り上げ1兆円を突破し、2兆円も目前です。これからどういう方向へ導いていこうとお考えですか。
一宮 現在、業界のリーディングカンパニーとして重要なことは、企業として社会的責任を持つということです。今まではがむしゃらに前へ進むことを考えていればよかったかもしれない。しかし、今後は社会的な責任を、なお一層自覚していかなければと思います。
当社はCSR(企業の社会的責任)を推進していく上で、CS(顧客満足度)、労働問題、環境問題、コンプライアンス(法令遵守)の4点を掲げ、具体的に当社の事業の中で推進していますが、そのために大事なことは、人材だと思っています。人があって初めて、企業は成り立つ。そのように考えています。
福島 人材育成はどの企業にとっても永遠の課題ですね。
一宮 「ヤマダ電機の社員でよかった」という誇りを持つ社員を1人でも多く育てること。そして、周囲の方から「さすがヤマダ電機の人ですね。違いますね」といわれるような人間を育てていくことが重要じゃないかと。我われ専門量販店で大事なことは、やはり接客なんです。お客様は商品を買いにきますけれども、人を通じて商品を買うということが基本ですので、教育に最大の力を注いでいかなければと思っています。
一流を超える企業にしたい
福島 拝見した資料では、一宮社長が人材の育成や、誇りを持って仕事ができる環境作り、あるいはワークライフバランス(仕事と生活の調和)などに注力されていると感じました。業績では業界のリーディングカンパニーになったわけですが、本当の意味で一流企業への進化を目指しているという印象を受けたのですけれども。
一宮 売り上げや利益は当然のこととして、当社で働く社員も含めて一流を超える、超一流の企業にしていかなければと思っています。
福島 一流を超える、ですか。
一宮 そのためには社員一人ひとりが経営理念をしっかり理解して、これを基にして企業として成長し続けることが大事だと思っています。
山田会長は常日頃から「ヤマダ電機は膨張ではなく、企業として持続成長し続けなければならない」といわれています。私はそのことが、超一流企業としての証であろうと思います。そのためにもまずは、私自身が常に意識改革をしないとダメだと、そう思っています。
福島 ヤマダ電機側にもいい分はあるでしょうが、メーカーからのヘルパー派遣問題で公正取引委員会の排除勧告を受けましたよね。そういう状況を鑑みての「超一流企業への進化」、「CSRの取り組み強化」という側面もおありなんでしょうか。
一宮 当社としては排除勧告については真摯に受け止めております。「業界の慣習で他社も同じことをやっている」という気持ちは持っていません。リーディングカンパニーとして真正面から受け止め、改善すべき点はすでに改善を行なっています。指摘された点も含めて、現状の当社は、業界の中でもクリアで透明度が高いと考えています。
企業理念の具体化
福島 これまでずっと「創造と挑戦」という理念の基にヤマダ電機は成長してきたわけですけれども、35周年を迎えた年に、「感謝と信頼」を改めて掲げられましたね。
一宮 「感謝と信頼」は創業時代から会長がいい続けてきたことです。私は「創造と挑戦」の根底にあるものが、「感謝と信頼」であると思っています。
福島 企業理念が形骸化している企業も少なくありませんが、本当に浸透させるために、どんな取り組みを行なっているのですか。
一宮 企業理念を浸透させていくことは、非常に大切なことです。それには企業理念をいかに具体化し、事業に取り込んでいくかが重要なことだと思います。
例えば当社には有資格制度があります。人事面において当社は平等ではありません、しかし公平です。やる気のある人、モチベーションの高い人、能力のある人はどんどん登用しています。
現実に当社の役員は若いです、同規模の他社に比べれば。30代の役員もいますし、40代の取締役が非常に多い。能力のある人をどんどん登用していくためには、公平な人事評価が欠かせません。そのための制度が有資格制度であり、誰でもチャレンジできる。そして、正当な人事評価を受けられます。
また、当社には改善提案制度というものがありますが、これも社員のモチベーションを高め、経営参加をしていくという意味から非常に重要なことであると考えています。
これらは一例ですが、さまざまな面において、企業理念を具体化していくことが重要ではないでしょうか。
理念は机上の哲学ではない
福島 一宮社長ご自身のことをお聞きしたいのですが、ご実家は電気店だったそうですね。で、ある日、山田会長から電話がかかってきて「出てこないか」と誘われたとうかがいました。
一宮 そうです。私は山田会長の甥にあたります。当時の私は、大学は卒業したけれども、親のすねをかじっているような状態でした。就職も決まったんですが、そこも断って。「大学を卒業して俺は何しているんだろう」と悩んでいた時期なんです。そんな時に電話があった。
福島 山田会長は当時から一宮社長のビジネスセンスを高く評価して、声をかけたのだと思っていました。
一宮 それはどうでしょうか。私自身、他企業で働いたこともないし、当然、実績もない。会長によって見出され、それこそ一から育てられてきましたので、ビジネスセンスがあるかないか、それ以前の問題ですね。
福島 ちょっと不思議だったのは、一宮社長はその当時から「がむしゃらに働いたという意識がない」とおっしゃっていることです。
一宮 そうなんです。多分それは、先ほどお話ししたように、他企業で働いた経験もないので、行なっている仕事自体が当然のことのように思えたからかもしれません。
ですから、がむしゃらに働いてきたという意識が自分にないんですよ。言葉で表しようがないんですが、自然と「当然のことのように仕事をしてきた」という感じです。
福島 今の若者はマニュアル世代などといわれ、いわれたことはやるが、教えてくれないことはできなくて当然、という風潮が強いように感じます。そういう中では、一宮社長の仕事観はやや異質に映るかもしれませんね。
一宮 だからこそ、大事なのが企業理念なんです。企業理念というのは、創業者が頭で考えて「こういう会社にしたい」ということで生まれたものではなく、日常的な活動の中で行なってきたことを、言葉に置き変えたものだと思います。
ありふれた言葉ですよね。「創造と挑戦」にしても「感謝と信頼」にしても。でも、なぜこれを大事にするかというと、我われが実際にやってきたことだからです。だから、大事にしたい。机の上の哲学じゃないんです。
福島 ただ、トップが代替わりし、組織が大きくなる過程で、だんだん創業者の思いから離れていく面があります。そうなると、やはり……。
一宮 これを引き継ぎ続ける会社にすることが大事なんです。我われがいなくなった後、どうなるか。永続性のある企業として育て上げていくことが大事なことだと思います。
福島 常にベンチャーであり続けると。
一宮 それがなくなったらダメですね。 (敬称略)
1955年8月、宮崎県生まれ。1980年、創価大学法学部卒業。1983年にヤマダ電機へ入社。1986年に取締役へ昇格し商品企画部長に就任。以後、1987年・常務取締役管理本部長、1988年・専務取締役管理本部長、1995年・取締役副社長、1996年・代表取締役副社長と昇格を続けながら、山田会長のパートナーとして活躍。2008年6月に代表取締役社長兼代表執行役員COOに就任した。
一宮社長はご自身の役割を「ヤマダ電機を超一流企業に進化させていくことだ」という決意を持ってのぞまれていますが、そのために「まず大事なのが人材育成だ」とおっしゃったのはなるほどと思いました。
今や企業価値を構成する要素として、業績や財務的な数値といった有形資産だけでなく、むしろブランドやCSRへの取り組みや、人材の質といった無形資産の重要性が高まっている時代です。
ヤマダ電機が真の一流企業となるためには、この無形資産の強化が欠かせないとの思いでしょう。一流の、しかも一流のベンチャーとしての歴史を積み重ねていくことができるかどうか、一宮社長の手腕に注目していきたいと思います。





