福島敦子のアントレプレナー対談 No.19
(写真◎乾芳江)オークネット◎藤崎清孝社長
世界初の
「中古車TVオークション」
84年3月に創業者の故・藤崎眞孝氏が実弟の藤崎清孝氏(現社長)と設立。85年6月に世界で初めて中古車業者間の競売をTVで行なう「中古車TVオークション」をスタート。早くから出品車の検査体制を重視し、検査専門子会社AISを設立。その検査基準はトヨタ、ホンダ、日産などメーカー中古事業者と統一された業界標準となっている。現在は中古バイク、中古パソコン、花などのTVオークションに進出している。
http://www.aucnet.co.jp/
「手間がかかる」をきっかけに
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福島 オークネットさんは1985年に世界で初めて中古車のTVオークションをスタートしたパイオニアです。まず、どういうきっかけでこのビジネスを始められたのか、そこから教えてください。
藤崎 当社は先代社長(故・藤崎眞孝氏)と私とでスタートしました。先代は私の実兄で10歳違いですが、40年ほど前から、中古車販売業を営んでいましてね。当時、販売業者として仕入れのために中古車オークション(現車の競売会場)を利用していました。しかし、利用するうちに「オークションは便利だけれども手間がかかる」と。「これを通信にしたら」という発想がきっかけになったのです。
また、その当時は第1次パソコンブームでもあり、当社も82年にパソコン販売会社を設立。コンピューター関連の販売や開発を手がけていました。グループ内にコンピューターのノウハウを持つ会社があり、中古車を販売しているということで「これはもう通信を使ったオークションをやろう」ということで、プロジェクトがスタートしたのです。
福島 藤崎社長のご兄弟は、皆さん、経営者だとうかがいました。起業家精神にあふれたご家族だったんですね。
藤崎 どうでしょうか。まあ、感覚としては、一番年長の先代が起業家精神を持っていて、皆でそれを学んだところはありますね。残念なことに93年に51歳で亡くなりましたが。
福島 お若いですね。
藤崎 先代は、いろいろなビジネスを立ち上げました。中には「これはいいや」と止めてしまうとか、そういう部分も繰り返しながらですね。そういう先代を通して、ビジネスとは何ぞやということが、かなり身に付きましたね。
福島 ご兄弟は何人ですか。
藤崎 5人兄弟です、男ばっかりの。私が一番下です。
福島 ご実家は何かご商売をやっていらしたんですか。
藤崎 やっていません。父親はサラリーマンでしたが、あまり稼ぎもよくなくて。5人とも一応学校は卒業しましたが、苦労が多かったですね。そういう意味でもハングリー精神が芽生えて、何かやらなくてはいけないという思いが、1つの要因になったとは思います。
福島 早くからお兄様の仕事を手伝われていたのですか。
藤崎 中学生ぐらいから、仕事みたいなことをやらされていましたね。兄が車に関わったのは学生時代。バイトで稼いだ金で買った中古車を、雑誌の売買コーナーに出したのですが、これが高く売れたことから始まったんです。学校卒業後、1年ぐらいサラリーマンをやりましたけれども、辞めて中古車展示場を作り、そこから会社経営を始めました。23歳ぐらいの時ですね。
私は当時、13歳。車磨きから、お客さんの相手のようなことをしていました。中学生が接客でもないんですが、他に誰もいなかったもので、しようがないから、私がせざるを得なかったんですよ。
先代社長との絆
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福島 仕事を手伝われたのは楽しかったからですか。
藤崎 楽しいというか、見るものがすべて新しくて。いつの間にか、ついていったというパターンですかね。時には大変なことをいわれたりして、苦労して手伝っていましたよね。ある時、パンフレットを作ることになったのですが、私が写真を撮りにいき、それを編集し、レイアウトする。全部やらされました。やったこともないことを、いきなり「やれ」といわれるものですから、鍛えられましたね。
福島 10歳も離れているお兄様からの指示ですと、わりと素直に聞けるのではないですか。
藤崎 そうですね。よくいうんですけど、父親と兄の中間みたいな存在なんですよ。父親というとちょっと毛嫌いしちゃうけど、かといって兄貴でも近すぎて反発心が出る。ところが、その中間的な存在だったので、いつの間にか、仕事を手伝っていたんですね。
福島 いずれはお兄様と一緒に会社をやろうと思っていたのですか。
藤崎 いずれ独立という感覚はありましたね。サラリーマンじゃない、と思っていました。しかし社会勉強をしたいから、不動産会社に入りましたけどね。で、3年ぐらいして呼ばれました。まだ続けたかったんですけれど、兄に「辞めてくれ」といわれたんです。当時、グループ内に通信販売会社があったのですが、そこが赤字でしてね。これを立て直せ、ということでした。
福島 いきなり経営再建ですか。よくお引き受けになりましたね。まだ、社長の経験もお持ちでなかったのに。
藤崎 がむしゃらでした。そういう意味では、かなり荒っぽい勉強をいつもさせられたという感じですね。
その通販会社は、ラジオ局と一緒に自動車整備講座をやっていたのですが、それが大赤字でね。私の最初の仕事は、その事業からの撤退でした。ラジオ局に出向き「すいません」といって頭を下げて。今でも覚えていますよ。あれは27歳頃かな。なぜ止めざるを得ないかということを、とくとくと説明しました。
そうしたら、2つ返事でしたね。「そこまで苦労されたんですか」と。その話を通じて、その方と仲良くなりましてね。その後もお付き合いをさせていただきました。
福島 人のご縁というのは不思議ですね。
藤崎 そうですよね。そういうマイナスの時でも、やっぱり誠意を持って対応すれば、相手は分かってくれるということを学びましたね。そういう大変な役目を、兄は私にどんどん課しましたけど、その中で本当の経営を肌で感じながら、覚えていきましたね。
福島 先代社長と藤崎社長とは、兄弟の枠を超えた、何か特別な絆で結ばれていたのでしょうね。
藤崎 やっぱり尊敬していましたよね。いつも先々を一生懸命に勉強していましたしね。
品質評価基準の確立を重視
福島 今でこそネットショッピングが普及し、現物を見ずに物を買うことへの抵抗感が薄れてきたと思います。しかし85年当時、現物を見ないで中古車を購入することには、もの凄い戸惑いや不安があったと思うんですよね。当時の業者さんの反応は、どんな感じだったんでしょうか。
藤崎 大半の人は「そんなのできるわけない」と。そういう評価でしたよ。当然のことながら中古車ですから、1台ごとに、どんな傷があるかや、乗り方次第で程度が違ってくる。一物一価の状態ですよね。
しかし、その辺は兄が中古車販売で培ったノウハウもあってですね。ここまでやれば何とかなるだろうという検査体制、これを初めから立ち上げて、買い手の立場になって車を全部チェックしたんです。どこに傷があって、どういう程度のものか、過去に事故歴がないかなど。当時、0から10までの評価点を作りましてね。要は「どういう車か」ということを情報にしたわけです。それを基にして買ってもらうということにチャレンジしたんです。
福島 信頼される品質評価基準の構築を重視したわけですね。
藤崎 検査が大事だということで、しっかり検査員を教育し、買い手の立場に立って検査をする。うちの検査は厳しいといわれています。売り手の立場からすれば「そんな小さな傷、どうでもいいじゃないか」となる。しかし、そういうこともチェックして、かなり詳細な情報を出したんです。出品店からは「そんなに厳しいんじゃ出せないよ」という反応が結構ありました。
ところが、それだけ厳しい検査なので買うのは安心だろうということで、買い手はついてきたんですね。買い手がついてくると売れるものですから、出品店も「少し厳しくてもしようがない」といって出品するようになった。検査の仕組みを重視したことが功を奏したんです。
福島 それにしましても、事業のスタート当初は参加会員が560社、出品台数が119台。それが現在では7000社の会員企業で、出品台数が年間約30万台まで飛躍しています。この急激な成長の要因を、どう分析されていらっしゃいますか。
藤崎 TVオークションのよさは、車を移動せずに出品できること。これが最大の特徴なんです。従来型のオークションは、現車を持ち込んでそれを競っていきます。うちの場合はその車を、検査員が出向いて情報化しますので、展示したままオークションに出せます。
しかし、現車を見ないで買うということになると、高い車は売れないような気がしますよね、普通は。それが逆でしてね。いい車、高い車程、うちを利用していただけるんです。
それは、うちの検査を信用いただいていることもありますが、高年式高額車両と呼ばれるいい車は、基本的に移動させたくないんですね。傷が付く可能性がありますし、走行距離も増えてしまう。だから移動せずに売りたい。TVオークションは、そのニーズにフィットするんです。
しかも、高額車両は地域内よりも全国で買い手を探す方がいい値段が付く。うちは全国ネットですから、いい値段になるという評価も高いんですね。
WEBを使いサービス拡充
福島 オークションのシステムですが、スタート当初はレーザーディスクを使用し、今は衛星放送です。今後はインターネットに切り替える計画とうかがいましたが、その狙いはどういうことですか。
藤崎 1つにはランニングコスト削減もありますが、やはり最新の技術を使って新しいサービスをどんどん提供していくためのインフラ作りという意味合いが大きいですね。
今までは、7000以上の会員様すべてに対し、リアルタイムで画像や音声をやり取りするには、衛星放送が一番効率がよかった。しかし、ネットのコストも安くなり、ブロードバンド環境も整ってきて遜色ない状態になってきたということで、次世代サービスの拡充に向け、切り替えようということを考えています。
福島 インターネットにシフトすることで、これまで以上に詳細な情報を提供できるようになると。
藤崎 会員様からすると、ネットに切り替わったからといって、TVオークションそのものは、そんなには変わらない。うちがこれから提案したいのは、「共有在庫市場」という新しい仕入れ販売手段なんです。
オークションというのは、その日朝から晩まで次々に中古車が出てきて、1台ずつ競売にかけられます。自分の買いたい車がいつ頃出てくるかということはリストで確認できますが、朝1番に出たり、夕方だったり。そうしますと、そういうオークションに参加すること自体が、だんだんと大変なことに感じられるようになってきたんです。今までは、それでも便利だといわれていたんですけれども。
そこで共有在庫市場は、うちの会員店様が持っている在庫をどんどんデータベース化しましょうということです。今までは在庫を競売にかけてさばいていたけれども、そうではなくてデータベース化して全会員に開示する。そうすれば、小売店は在庫情報を画面で見せながらの商売が可能になるわけです。小売りをしながら、同時に卸し売りのチャンスを狙うということですね。
しかし、相当膨大なデータ量になってきますので、衛星よりもWEBを使った方がより使いやすくなる。そういう新しいサービスメニューを加えて、インターネット化していくということです。
福島 インターネットの新しいシステム構築では、ヤマダ電機がパートナーになっていますが、それについてはどうお考えですか。
藤崎 ヤマダ電機さんに対する?ちょっと難しいな(笑)。やはり全国的にサービス対応できる規模がある、そういう会社だということが一番大きいと思います。そういう企業さんじゃないとやっぱり心配ですよ。
うちは端末を売ることがビジネスではなくて、それを活用し、どれだけオークションをご利用いただけるか。その収入で運営している会社ですから、サービス対応がおかしなことになると、後々お客さんに対する信用を失います。そのフォローをきちんとやっていただける会社、という基準で選ばせていただいたんです。
福島 その言葉を、そのまま法人営業部にお伝えしておきます(笑)。
藤崎 そうですか。それを期待していますということで。
生花と中古車の共通点
福島 ところで、新事業の花のTVオークションはちょっと意外な感じがしたのですが、なぜこの分野に進出されたのですか。
藤崎 いろんな面で中古車に似ているんですね。まず、流通手数料額が、中古車業界とほとんど同じなんです。当時、500億円ぐらいでしたかね。
福島 そんなにあるんですか。
藤崎 花の流通では、市場を経由するものが多いんです。市場へ入り、そこから競りで流れていく。規模は十分にあるということですね。
それともう1つは、今の仕組みのままで売り手も買い手も満足していれば、我われにチャンスはなかったのですが、「もっと効率的な、いい流通ができないか」というニーズが非常に高かったということですね。
福島 中古車と同じように花を持っていく、あるいは仕入れるために市場に出かけなければいけない、という手間隙などですか。
藤崎 そうです。例えば生産者は花を朝切ると、売れなかったら捨てるしかない。結局は、市場に値段を委ねるしかないわけですよ。たまたま同じ市場に同じような花が数多く入ったとします。当然、あふれてしまいますから、単価が下がる。下手をすればただ同然になる。そういう状態も、ままあるんです。
一方、買い手はですね、想像すればお分かりのように、朝早く長靴をはいて軽トラックで出向くわけですね、市場に。そして、競りをして、仕入れた花を荷造りして運んでと、大変な思いで仕入れている。それが週に3回。大変な作業なんです。そういう状況であれば、通信を使ったらかなりの手間が省けるかなと。これが進出のきっかけですね。
福島 どういうところからヒントを得たのですか。花の事業者との接点が結構おありだったんですか。
藤崎 始める前にそういう方たちの意見を多く聞きました。流通関係者や花の流通に詳しい学者さんとか、そういう方たちにうかがっていく中で、当社に期待をされたということがありますね。
福島 お兄様と一緒に会社を立ち上げ、ここまで事業を成長させてこられたわけですが、ご自身が経営者として大切にしていることは、どんなことでしょうか。
藤崎 やっぱり企業は信頼が一番だと思うんですね。当社の経営理念に「本物主義」という言葉があります。本物のサービスを追求してきた。それが業界のプラスになったり、社会に貢献するということですね。そこから信頼関係が生まれますので、これを大事にしています。信頼を失わないようなビジネス、サービスをやっていきたい。これがうちのポリシーですね。(敬称略)
1952年東京都生まれ。75年、法政大学社会学部卒。不動産会社勤務を経て、78年、フレックスホリデー入社。85年、オークネット取締役システム開発部長就任。主にTVオークションシステムの開発・運営の中枢として活躍。93年、オークネット代表取締役社長就任(現任)。
藤崎社長のお話で印象的だったのは「品質に格差のあるものにこそ、ビジネスチャンスがある」ということです。普通に考えれば、顧客には現物を見られないことへの不安や、一物一価の難しさなどがあるはずです。
しかし、これを払拭するために厳格な検査体制を構築。その情報を提供することで、顧客の信頼を勝ち得るという戦略は、まさしく理にかなっていると思います。 ここでポイントは、検査基準の厳格性は元より、研修等で検査の標準化を徹底したことが、結果的には販売店からの信頼につながったのだと思います。
インターネットや電子商取引の世界では今、その匿名性などによるトラブルが多発しており、淘汰の時代を迎えつつあるように感じます。こうした中で企業が勝ち残るためには、顧客にいかに信頼される体制を構築するか。その重要性を、藤崎社長のお話を通じて改めて強く感じました。(談)





