福島敦子のアントレプレナー対談 No.18

(写真◎乾芳江)

早稲田アカデミー◎須野田誠社長

先生が一生懸命さを見せれば
子供は必ずやる気になる!
(株)早稲田アカデミー(東京都豊島区)
 1975年、杉並区阿佐谷南にて小・中学生対象の学習指導サークルとして創業。76年に「早稲田大学院生塾」となり、本格的な進学塾として発足。85年に商号を「(株)早稲田アカデミー」へ変更。創業時に「都立最難関の西高合格者を5年で1位に」と宣言し、これを3年で実現。06年度は早・慶高980名(6年連続№1)、開成高46名など、業界屈指の合格者数実績を残している。99年日本証券業協会に株式を店頭登録(現ジャスダック上場)。
http://www.waseda-ac.co.jp/

●連結売上高
06年3月期  121億6700万円
05年3月期  102億9900万円
04年3月期  188億9800万円

無料学習教室でスタート

福島敦子氏 福島 御社は元々、須野田社長が学生時代に始めた学習塾がスタートとうかがいました。
 須野田 3人の子供を自宅で教えることから始まったんです。しかし、最初はこれを職業にする気がなかったものだから、近所の子供を集めて無料で学習教室というか、サークルを始めました。そうしたら、半年で100人になっちゃったんですよ。


 福島 半年で、ですか。
 須野田 3人の子供たちが勝手に呼んできたんです。近所の人も面白がって「タダだったら、まあいいか」と。しかし、半年で100人になったものですから、ちょっとお金をいただこうかと思いチラシをまきました。
 そうしたら1年で300人、2年で600人、3年で1000人になってしまった。そのままの調子でなんとなくやり出した感じなんです。


 福島 子供たちの心をひきつける、何かの術を持っていらしたんでしょうね。
 須野田 かなり昔の話なので、多子化という背景がありました。しかも塾は、若さがハンディにならない数少ない商売です。大抵の仕事は経験者が圧倒的に有利じゃないですか。ところが学習塾や家庭教師、ソフトウェア制作者などは若さがハンディにならない。
 実際、60〜70歳になれば、子供と話が合わなくなるじゃないですか。その点で学生の方が、子供と話が合うんです。ベテランと比べれば教え方は絶対に下手なはずなんですけれども、子供たちの人気は高かったと思いますよ。


 福島 教職免許を取ろうとは思わなかったのですか。
 須野田 いや、取ろうとして、途中で校長先生とケンカして辞めさせられました。


 福島 教育実習でケンカですか。
 須野田 教育実習である小学校にいきましたが、教壇に立つと、騒がしくて前から4列目以降は先生の声が聞こえない。これじゃ駄目だと思い、「みんな運動場に出てこい」と呼び出したんです。砂場で相撲をとり、一人ひとりぶっ倒してやりましたよ。そうしたら生徒が、逆に私にみんなついてきたんです。多分、兄貴的な情熱と本気さが子供たちに伝わったのだと思います。その日からそのクラスは、ビシッと一人も大声で騒ぐ子はいなくなった。

 ところが校長に呼ばれて「実習生なんだから勝手なことをするな」と。私からすれば多くの先生が生徒に迎合し、先生に主体性がなかった。師と弟子の関係というのは、師が主体性を持たないといけないのに、弟子に迎合したのではしようがない。校長にさんざんいったのですが、「実習生の身で何だ」ということになって、ついに大ゲンカ。だったら辞めてやると。途中でクビになりました。


 福島 先生と生徒の間の距離感は当然あって然るべきだと思うのですけれども、最近はそれがまったくなくなってきているようですね。
 須野田 もちろん暴力はよくないのですが、ある程度、先生が支配的に生徒を教える。やっぱり師と弟子の間の厳しさというものは必要だと思います。その意味では学校の先生は、非常にやりにくい時代になったとは思いますね。



合格者数の拡大戦略とは

須野田誠社長 福島 早稲田アカデミーは急成長を遂げていますが、その要因をご自身でどう分析していますか。
 須野田 戦略と合格実績ですね。例えば創業当初、ターゲットを当時の最難関校だった都立西高校に定めました。当時の入試は学校の内申書が50%、本番の試験が50%というウエートで合否が決まっていました。そうすると内申書を、まず上げないといけない。そこで生徒が通っていた中学校の過去の試験問題を集めたんです。
 その学校の先生たちが過去にどういった問題を出したのかを分析し、予想問題を作って子供たちに覚えさせました。それが全部当たりましてね。内申書の平均が1.2ぐらい上がったんです。それで、塾設立から3年で西高の合格者数が全国№1になれたんです。

 時代と共に今度は早・慶高校の実績を作ろうということで「早・慶高校合格者数を10年後に全国№1にします」というチラシをまきました。結果的には11年かかりましたが、全国で№1を実現しました。
 その次は東大日本一の開成高校№1だということで、今から5年前に開成高校を№1にすると宣言したチラシをまきました。今年がその5年目ですが、残念ながら達成できなかった。来年は多分達成できると思います。
 こういった宣言をマニフェスト的に出す。ほとんど宣言通りに達成します。たまに達成できない年もあるんですが、それは正直に「すみません」と書いて出す。そういった戦略で成績を上げて合格させて、というスパイラルで成り立ってきたのです。


 福島 目標を掲げるのは簡単ですが、実際に達成するのは大変なことですよね。
 須野田 例えば志望学校別のクラスを作り、その学校に過去、相当実績のある先生を配置して、その先生が実際に合格させたかどうかによって、インセンティブを設定するわけです。やっている先生としては、インセンティブにも興味はあるし、自分が開成を担当して、それで日本一になれば、プライドも満たされます。競争原理とプライドとインセンティブ、そのバランスが非常によかったんだろうと思います。


 福島 他の進学塾にもインセンティブなどはあるはずです。しかし、これだけ実績を上げているのは、やはり早稲田アカデミーにしかない何かがあると思うのですが。
 須野田 研修ですね。その中身が多岐にわたっており、これがうちにとって一番重要だと思います。


 福島 先生が受ける研修ですね。
 須野田 そうです。教え方を指導するとか、生徒をやる気にさせるためのテクニックを学ぶとか、そういったことです。
 しかも、例えば教え方をビデオで撮って、「生徒から見れば、お前のこういった所が悪い」とか。あるいは、やる気にならせるための決意表明とか、プレゼンテーションとか。いろいろな宣言などを人前でやらせ、それを徹底評価する。「こういった点がまずいんだ」と突いていく。立体的にやるわけです。こういった研修はどこでもできそうですが、簡単にはできないんですよ、実際には。



公立校の教職員を指導

 福島 非常に驚いたのは、中学校に出向き、先生への教育技術指導をこちらの先生がやられていることです。場合によってはその学校に出向授業の形で出向き、生徒に授業をされているそうですね。
 須野田 3年ぐらい前から、都内の公立中学校などに頼まれましてね。中にはけっこう荒れている区もあります。


 福島 マスコミにも随分と取り上げられていますし、ものすごい危機感を持っているようですね。
 須野田 「うちの先生を教えてくれないか」と頼まれたのですが、授業を見たらすごく荒れていましてね。先生たちに聞くと「お前の所は生徒が金を払い、選抜されてきているから、たまたま静かに授業ができる。うちの学校の現状を見てくれ。こんな所でできるわけがないだろう」というわけです。それでちょっと腹が立ちましてね。「だったらやりますよ」と。
 そうしたら、生徒がけっこう静かに授業を聞くんですよ。校長がそれを見てビックリしまして「うちの先生にそのやり方を教えてくれないか」と頼まれました。それで「こうやったら静かに生徒が授業を受けるんだ」ということを講義したんです。

 中には腕組みして、挨拶しても返してくれないような先生もいました。「これは困ったな」と思いながらも続けたのですが、最後はそういう先生もみんな聞いてくれましたので、うちの方法も優れているなと改めて思ったんですけどね。学校が荒れているからどうしようもないという話ではなく、本当に一生懸命やれば変えることができる、ということだと思います。


 福島 静かに聞いてもらうだけでも大変なんでしょうね。
 須野田 我われにとってはそう大変じゃないのですが、普通の塾だと大変みたいですね。


 福島 どうやって静かにさせるのですか。
 須野田 専門用語でレディネスというのですが、効果的な授業をするためには、やはりその準備をしないといけない。騒がしい中で授業をいくらやっても効果が出ないからです。そこで、最初に起立、気をつけ、礼といって、全員がこっちを見るまで待ってから授業を開始する。ところがこれをやらずに、いい加減な状況で授業を開始するわけですよ。うちはとにかく全員がこっちを見るまで待つ。それが最初の戦いです。


 福島 覚悟ですね、教える側の。それを、まず生徒に分からせる。
 須野田 まあ、完璧にできているかというと、一人や二人はできていないかもしれない。それでも粘り強く続けるしかないと思います。



教育の役割分担を提唱

 福島 どうして学校には、それができないのでしょう。
 須野田 学校の先生は教員採用試験が難しいですし、ポテンシャルは高いはずなんですよ。しかし、あんまり頑張り過ぎると他の教師から反発を食う。悪平等原理のようなものがあるように感じますね。
 それでやる気のある先生たちが、だんだんとやる気をなくしてしまう。これが塾であれば、一生懸命頑張る先生がいれば、みんなでその先生を見習えという話になります。


 福島 学習塾が学校に出向き、先生の指導までを行なっている状況に、今の学校が抱えている問題の深刻さを感じます。
 須野田 時代の推移と共にですね、学校には非常に同情できる面もあります。部活もやって、クラス会運営もやって、生活指導もやってと、先生がへとへとになっているんですよ。
 昔の小学校でしたらパソコンなんて教えなくてよかったし、英語も教えなかった。世の中の仕組みなども、自然体験の中で教えることができた。しかし、今は分野が広過ぎて、一人の教師ではとても教えきれない。

 教育内容がこれだけ多様化している以上、ある部分についてはアウトソーシングしてもいいんじゃないかと思いますね。例えば、我々は授業をやって成績を上げることだけを専門にやっているから、学校より得意で当たり前なんです。その代わり、部活もクラス会運営もできません。
 塾がいい悪いではなくて、塾はそれが専門だからできて当たり前。「塾なんか」という考え方ではなく、不得意な部分については先生が教えを乞うたとしても、それは恥ではないと思う。すべてを学校の先生が教えるということ自体、もはや無理なわけですから。

 パソコンにしても専門会社のインストラクターが教えたっていいと思うんです。塾と学校が主客転倒したのではなくて、役割の分担をより合理的にやる時代になったんじゃないかと思いますけどね。


 福島 塾の善し悪しの議論ではなく、目的は生徒を伸ばすこと。そのために最適の方法を、どう再構築するかということですね。
 須野田 そう思います。



本気でやる子を育てる!


 福島 御社の経営理念の中で「本気でやる子を育てる」という言葉がとても印象に残りました。普通の子をやる気にさせて学力をアップし、志望校に入れる力をつけさせることが大事だとおっしゃっていますね。
 須野田 うちでいうと偏差値55ぐらいあれば、早・慶に入れる(早慶合格は一般的には偏差値70が目安)。最初は最低でも65ぐらいないと駄目かなと思っていました。しかし、そんなことは全然なかった。過去の実績では偏差値50ぐらいの子も入っている。
 だとすれば、本当に効率のいい勉強方法で、やる気にさせれば実際に受かるんじゃないかと思ったんです。うちは昔は無名の塾でしたから、最初からできる子はこない。しかし、そういった子でも有効なトレーニングをしていけば伸びるんです。

 重要なことは、先生の教え方ではなく、子供がいかに勉強する気になるか、です。そのためには、教師が一生懸命やる姿を見せること。そして、それが子供へ伝播し感化されることだと、ある時気付きました。もちろん教え方のテクニックとか教材なども必要なんですけれども、それよりも言葉の投げかけで、一生懸命さをとにかく見せる。それが一番有効なんですね。


 福島 生徒がやる気になる、先生の一生懸命な姿を見て。
 須野田 そうなる子が多いですよ。なぜ勉強しなければいけないかとか、くどくどいったところで聞き飽きているし、やる気にもならない。しかし、一生懸命さを見せれば、感動してやる気になるんです。
 先生が一生懸命になったら、子供はその一生懸命さに応えよう思うらしいんですよ。その信頼関係によって成り立っている。ですから我々が一生懸命さを見せるのが一番、結果として成績が上がると思っています。


 福島 須野田社長が塾の運動会で頑張っておられるのも、そうした考え方の表れですか。毎年、420m走ではトップをとられているそうですね。高校時代は陸上競技の選手だったのですか。
 須野田 元々バスケット部だったのですが、陸上にかり出されることが多かったですね。私に勝ったらハワイ旅行プレゼントだといったものだから運動会の3週間ぐらい前から、トレーニングを開始するんです。もっとも最近は、時々負けるんですけどね。まだ、6割がたは勝っていますかね。


 福島 すごく体が引きしまっていらっしゃるので、毎日鍛えているのかと思っていました。
 須野田 やらない、やらない。一応、本気でやることがモットーの会社ですから、まずは社長がやってみせないと、というだけですよ。


 福島 率先垂範、まずは社長がお手本を示すわけですね。本日はありがとうございました。(敬称略)

○須野田誠(すのだ・まこと)氏
早稲田大学在学中の21歳の時、早稲田アカデミーを設立。早稲田大学大学院経済学研究科修了。現在早稲田アカデミー代表取締役社長の他、早稲田大学特別研究員、淑徳大学講師等マルチな活躍をする。スポニチに毎週水曜日掲載の「カリスマ塾長 須野田誠の受験Q&A」は読者から圧倒的な支持を得ている。高校合格ランキング首都圏3年連続№1の早稲アカの顔として講演、テレビ出演多数。主な著書は「わが子を救う教育サバイバル術」(グローバル教育出版)等。100mを12秒台で走るスポーツマンでもある。
インタビュー後記
 「教え方よりも、いかにやる気にさせるかが重要」とのお話は、正論だと思います。子供の潜在能力は本来とても大きいもの。これをいかに引き出すかが、教育の原点ではないでしょうか。このことは一般企業にも当てはまり、管理職が現場の人たちの能力をいかに引き出すか。そのためにインセンティブ導入など、さまざまな試行錯誤が繰り返されています。同じように考えれば、学校の教師への評価も、ある程度は成果主義的な部分も必要ではないか、と感じました。  また、塾の先生が学校の教員を指導するというお話も、昔では考えられなかったこと。しかし、須野田社長がおっしゃるように、これからは教育の役割分担が必要なのだと思います。それでなくても教育の荒廃が、ますます深刻化しそうです。学校と塾は対立するのではなく、お互いを補完しあいながら「子供たちをどう伸ばすか」を共に考える。そういう時代なのではないかと思います。(談)